第22話
「はい、いらっしゃいませ! あ、領主様にフィーナさん、いらっしゃいませ!」
できたばかりのダインの店に入ると、ダインの弟子である職人がレオンたちを見て笑顔で迎えてくれる。
「あぁ、ちょっと買い物に来ただけだから気にしなくていいよ」
他にも商人たちが買い物をしているため、気を遣わないように声をかけておく。
彼らはそのへんの察しは良く、軽く会釈をするとそれ以降は作業に戻っていった。
「さて、それじゃ武器を見て行くか……って早いな」
既にフィーナは陳列されている武器を眺めている。
いつもの無邪気さはなく、真剣な表情で見ており、邪魔をするのは悪いと、レオンは自分も武器を見て行くことにする。
(なかなか品ぞろえがいいな。しかも武器の質もいいみたいだ……)
教師として勤めていた学園では武器を使った授業もあり、そのへんの管理を教師が持ち回りでしていた。
レオンは自分が担当の時には生徒と一緒に武器の手入れもしていた。
だからこそ、ここに並んでいる武器の良し悪しが、多少ではあるが理解できていた。
ここにあるものの多くは、ダインではなく弟子が作ったものである。
だが、それがわからないほどには造りの良いものばかりだった。
「ん? これは……」
質の良い武器に柔らかく目を細めていたレオンはふとある武器に目がとまる。
レオンの視線の先には一つ異質な空気を放つ武器があった。
他の武器は綺麗に陳列されているが、なぜかそのナイフだけは意図して粗雑に放置されているように見える。
(値段も書いていないし……)
「あ、気づかれましたか?」
レオンがジッとそのナイフを見つめているのに気づいた店員が少し嬉しそうに声をかけてくる。
「あ、あぁ、他の武器に比べて粗雑に置かれていると思ってな……」
同じ場所を商人たちとフィーナも見ていたはずだったが、なぜか気づかずに通り過ぎている。
つまり、これに気づいたのはレオンだけだった。
「さすがレオン様でございますね。これに気づかれるとは……このナイフには隠蔽の魔法がかけられているので通常では見つけることができないのです。目に魔力を込めた状態で探すか、レオン様のようにそれを見抜く眼をお持ちの方だけになります」
優しく微笑んだ店員はレオンが特別な眼を持っているという。
しかし、当のレオンには心当たりがないため、訝しげな顔で首を傾げることとなる。
「……俺が隠蔽されたものを見抜く眼を持っている、のか?」
レオンはいくら考えても思いつかないため、ますます疑問が深まるばかりだった。
自分は周りに恵まれてここまで来たため、特別な力などないと思っている。
「おう、先生来てたのか」
そのタイミングで丁度ダインが納品にやってくる。
「ほれ、この品物頼むぞ」
「はい!」
それを受け取った店員はキラキラと目を輝かせて商品を見ている。
ダインの商品は店員の目から見ても素晴らしいもので、うっとりとしながら商品を店の奥へと運んでいった。
「それで、先生がそのナイフを見つけたのか。……さすがだが、やはりといったところか」
感心したような様子のダインもレオンが見つけたのは彼なら当然くらいに思っているようであり、この反応が一層レオンの疑問を加速させる。
「その、なんで俺なら見つけると思ったんだ? 俺には特別な力は何もないはずだが……」
どれだけ考えてもわからないのなら素直に聞く――これはレオンが教師時代に生徒たちに言ってきた言葉の一つ。
だからレオンはダインへ疑問を真っすぐにぶつける。
「……はあ? 先生、今までそんなことを思っていたのか? いや、でもそうか……特別と思っていないのかもしれないな。それに能力じゃなく、経験値によるものなのかもしれないぞ」
呆れたようにレオンを見るダインは、一人でなにやら結論にたどり着こうとしている。
「もう、ダインさんは見た目と違って理屈っぽいなあ。先生はね、すごーく眼がいいんだよ! 遠くが見えるのとは別だけど、人のことをすごくよく見てるし、その人の能力なんかを見抜けるの。多分、生徒のほとんどがそれを感じてたと思うよ?」
一通り武器を見て回って戻ってきたフィーナはふふっと笑いながら レオンの人を見る目、更には人の才能を見抜く眼のことを指摘する。
「んでもって、多分そういう人を見る注意力とか観察力っていうのかな? そういうのが今回は働いたんだと思うよ。というわけで、それじゃ!」
それだけ言うとフィーナはまたもう一度見て回るようで、ひらひらと手を振りながら離れ、近くの商品を見ていた。
「――と、いうことだ。フィーナ嬢ちゃんは時折鋭いことを言うから油断ならんな」
肩をすくめながらダインはフィーナの背中を見てそんな風に評する。
戦闘力だけではSランクになれないことはわかっており、それがああいった鋭さや勘の良さからくるのだろうと予想していた。
「な、なるほど……俺は意識したことはないが、そういうものなのか。俺はただ教師としてやれることをやっていただけで、そもそものお前たちが優秀なんだと思っていた……」
突然の指摘にレオンは呆然としながら呟く。
全ては生徒たちがすごかったんだと、レオンはずっとただそう考えていた。
それだけに、ここにきて自分にも多少なりとも“見る”能力があったと言われて驚いている。
「はあ……あれだけ優秀な生徒たちをたくさん導いておいて、良くそんなことを言えるもんだな? 俺たちみたいな変わり者の職人勢、フィーナ嬢ちゃんみたいな天真爛漫なタイプ、真面目一辺倒だったやつら、悪さをしていたやつら……あげればキリがないが、何かしら突き抜けた才能に恵まれたやつってのはちょっと変わってるやつが多くて、他の先生は持て余してたんだ。みんな先生に出会えて感謝していると思うぞ?」
ダインは頑固、ガインは見た目に反してやや気弱、末弟のユルルに至っては寝てばかりの問題ありあり三兄弟が弟子に尊敬されるほどまでになれたのは、全てレオンのおかげだと思っている。
彼らは突出した製作能力があるが、それ以外はむしろ無頓着で適当すぎるきらいがある。
レオン以外の教師はそれを疎ましく思っており、彼らの扱いに困っていたのはダインたちも感じ取っていた。
だがレオンだけは根気強く自分たちに向き合い、自分たちの良いところをたくさん伸ばしてくれた。
レオンは自身ではそれらを当然と思っているため、すごさに気づいていないが、個性豊かな彼ら生徒からすれば人生の師とも仰ぐ存在であった。
「なるほど、そういうものか。……いや、なんか、嬉しいな。ただみんなが頑張っているからその後押ししただけのつもりだったんだけどな。改めてそんな風に言ってくれると嬉しいよ」
それも普段だったら絶対に言わなそうなダインが言ったのは、より効果的だった。
照れ隠しに首の後ろあたりを掻きながらレオンははにかんだ。
「い、いや、そんなにストレートに言われると俺もなんだか恥ずかしくなるが……まあ、そんなことよりもそのナイフに気づいたならそれは先生のもんだ。そういうつもりでそこに置いていたんだよ」
釣られるように恥ずかしさからほんのり顔を赤らめたダインはそれをごまかすようにナイフを手にすると、それをレオンに押し付けるようにして渡す。
「いいのか? これ、隠蔽能力がついたいわゆるマジックウェポンだろ? 普通に売ったら高いんじゃ……というかそもそもなんでこんな場所に置いといたんだ?」
素朴な疑問であるため、レオンはそれを投げかける。
「あー、最初は見抜けるやつがいたら売ろうくらいに思っていたんだけどな。これが問題で、作った俺も一応は使うことができるんだが、普通の目だから見つけられなくなったんだよ。誰かが意識して見ていれば見つけることができるんだが……がっはっは!」
あまりにも粗雑な扱いを受けるマジックウェポンを手にしたレオンの疑問に、大笑いしながらダインが答える。
つまり、作って適当に置いたら場所がわからなくなったということだった。
今回、レオンがすぐ見つけてしまったため、実感は薄いが、製作者さえも発見するのが困難なアイテムである。
「で、その見つけづらい隠蔽能力のあるナイフは、どう役に立つんだ? 侵入者が来ても、武器を持っているのがばれないとか?」
ばれなければ隠し武器として持つことが可能であるため、レオンはそんなことを考える。
しかし、ダインはニヤリと笑って首を横に振っていた。
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