第21話
それから数日経過した頃には、閑散としていた領地には人が集まって来ていた。
職人たちが小さいながら店を数店経営していることで、賑わいを見せてきている。
商人たちには、いつもと変わらずにフィーナが獲って来た魔物の素材と三兄弟が作った武器・防具・服・装飾品を買い取ってもらう。
ただ、それだけに終わらないように、彼らに領内を案内して店が開いたことを宣伝していく。
もちろん品ぞろえも見てもらい品質の高さを理解してもらう。
またダインは、鍛冶、洋裁、彫金、木工のいずれかを学んだ者たちと説明したが、それ以外にも彼らは独自に学んで、革細工、料理などなど様々な技術を持ち合わせていた。
それらも同じく店頭に並べており、商人たちの興味を惹いていた。
「もしよかったら、こっちの店にも自由に買い出しに来てくれ。こっちは俺の許可は別にいらない。買い物の邪魔はできないからな」
「そ、それは助かります!」
レオンのその言葉にイーライは感激したように彼を見る。
自由に買い物ができるのであれば、時間のある日に部下を買い出しに出すことができる。
さすがにレオンとの交渉ではそうもいかず、イーライが顔を出さなくてはならない。
もちろんレオンのもとでしか手に入らない物もあるが、それ以外に買い物ができるのは彼らにとって大きなことだった。
「それと、もし泊りがけで来る場合の宿代わりになる建物も準備を始めているから、ゆっくりと来てもらって大丈夫になるだろう。格安で提供するのと、食事は自分で用意してもらうことになるけどな。まあ、食堂もあそこにオープンしたから、そこを利用してもらえるかい?」
レオンが次々に説明していくのを、イーライたちは驚いた表情で聞いている。
「建物は増やしていくから、住みたいやつがいたら紹介してくれると助かるよ。俺が領主になってから初期移住者にはなるべく安く家を提供しようと思っているんだ。仕事に関しては店の手伝い、あとは自分の店をやってもらうのもいいと思う。まだ雑貨屋や生活必需品の店はないからなあ。あとは、今後採掘作業なんかで人も必要になる。道路の整備にも人手が必要だな」
考え込むようにしてぶつぶつとつぶやくレオンの言葉は止まらず、イーライたちは彼の熱量に押されっぱなしになっている。
「せーんせ、レオン先生!」
一度目では止まらなかったため、しょうがないなと笑ったフィーナは二度呼びかける。二度目はやや強めの声で。
「お、フィーナか。どうした?」
何事かと言葉を止めて彼女の方へ振り向くと、彼女はクスクス笑いながらイーライたちを指さしている。
そこには、レオンの矢継ぎ早の説明に戸惑っているイーライたちの姿があった。
「あー、これはすまない。どうやらやらかしたようだ。ついつい熱くなると話が止まらなくなってね。申し訳なかった」
自分がやらかしてしまったことに気づいたレオンは申し訳ないと頭を下げる。
「い、いえいえ、驚いたのも戸惑ったのも確かですが、不快だったのではなく――この数日でこの街が大きく変わったことにとても衝撃を受けているのです」
このイーライの言葉に、同行していた商人たち全員が大きく頷いていた。
それほどまでに、このシルベリアの地は大きな変化を起こしていた。
「そうか? なら、よかったが……とにかくここは人々を受け入れる準備を進めている。もちろん強力な魔物も森にいるが、そちらに関しても色々と対策を考えているところだ。それもこれも、人が増えてくれれば進むはずだ」
城壁を作る案、そして水路を作る案。
そのどちらをも採用することで、領民に安心感を与えることができるように考えている。
「それは素晴らしい。やはり、私の目に狂いはなかったです。正直なところを話しますと、私の父は私の代になったらシルベリアへ来るのを辞めるように言っていたのです。……ですが、レオン様はきっと新しいことをおやりになると判断した私は、父の意見を振り切ってこちらに来るようにしました」
これは誰にも話したことのない、父とイーライ二人だけのやりとりである。
彼を信じてきた自分の気持ちを吐露するように熱のこもった眼差しをレオンに向けながらイーライは口を開く。
「現在の商会の会長は私なのですが、念のため父にも状況報告はいれています。もちろんこの地についての情報も色眼鏡なしで伝えています。父は、それらを聞いて私の目が正しかったと言ってくれています。これは、商人として本当に誇れることなんです!」
もしかしたら、だめかもしれない――イーライ自身もそう思う時はあった。
それでも、レオンを信じ続けて来たことで、今がある。
それを彼自身心から嬉しく思い、誇っていた。
「そうか……それは俺も嬉しいよ。親父さんにもよろしく言って欲しい。あと、これからシルベリアはもっとでかくなっていくというのもつけ加えておいてくれ」
彼が自分のどこを気に入ってくれたのか、それははっきりとはわからなかったが、レオンはそれを期待だと受け止め、最後は半分本気の半分冗談で言う。
「わかりました!」
こちらは八割本気で応えており、実際にこのあと家に帰宅したあと父にそのままを伝えることとなる。
もちろんそれはレオンの評価を更にあげる効果を果たしていた。
「それで、今日はどうする? みんな帰るのか? 買い物をしていくなら邪魔をしないように屋敷に戻るが……」
レオンがそこまで言うと、待ってましたといわんばかりに彼らは目を輝かせている。
「そ、それではレオン様。少々失礼して、みんな買い物に行くぞ!」
うずうずと待ちきれない様子のイーライを始めとした商人たちは、店に並んでいる品物を早くみたいと思って気が急いており、軽くレオンに頭を下げると、商人たちは急ぎ足で店に繰り出していった。
「――いい買い物ができるといいな」
それを嬉しく思いながら目を細めて彼らの背中を見るレオン。
もちろん品質にはレオンも満足している品揃えであるため、彼らの眼鏡にかなく商品もおいているあるだろうと期待して見送った。
「先生、私たちもお買い物していこう! ダインさんが武器調整してくれてすごく調子がいいんだけど、他にも武器買っておきたいなーって思ってたんだ!」
手を取りながらそう話すフィーナの言葉に、レオンは首を傾げる。
「確か武器はダインがあとで作ってくれるんじゃなかったか? 少し時間はかかるって話だったが……」
レオンの質問にフィーナは考えながらへにゃりと力なく笑って答える。
「それはそれで楽しみなんだけど……。この間サブに使っている武器が壊れちゃったから、念のため予備に武器を用意しておきたいの。武器はいくらあっても足りないくらいだから!」
それを聞いたレオンは、彼女が使っている武器や能力を思い出す。
かなりの重量の大剣を使っており、彼女の膂力に耐えられる武器は少ないという。
そうなると、武器の消費も激しいのが容易に想像できた。
「わかった。それじゃ、俺が新しく買ってやろう。いつも頑張ってくれているご褒美だ! あ、一応言っておくがこの金は俺が教師時代に稼いだ金だから、ちゃんと自腹だぞ? 領主としての稼ぎだと、フィーナたちのおかげだからなあ……」
最初は教師時代のように少し自信があったようだが、最後は情けない自分に頭を掻いてそういいながら、レオンは武器屋に向かう。
「……ありがと!」
その気持ちをフィーナは嬉しく思い、満面の笑みでスキップしながらレオンのあとをついていく。
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