第16話


「いや、すまんな。色々気づいてやれなくて……にしても、ずっと俺のことを慕っていてくれたんだな。本当に助かる。ありがとう」

 自分が教師としてしてきたことはそれほど大ごとではないと思っていたが、こうして集まってきてくれた彼らの気持ちを知って、レオンは胸が温かくなるのを感じていた。

 嬉しさから柔らかく目を細めたレオンが深々と頭を下げると、三兄弟は照れて頭を掻いていた。


「三人のメインの特技で名物が増えるな。それに家についても、宿泊場所や作業場所の準備にもすごく役に立ってくれる。お前たちがいてくれるおかげでやってくる商人たちにも、場所を提供できるようになるぞ」

 このタイミングで三人がやってきてくれたことは、レオンにとって行幸だった。


「俺たちは作ることに関しては他より優れてるほうだとは自負してる。だけど、それ以外のことは割とさっぱりだったりもするんだ」


 偏屈なダイン、気弱なガイン、寝てばかりのユルル。

 製作系特化型であり、それ以外のことは比較的不得手である。


「つまり、俺次第ってことだな」

 この言葉に三兄弟は揃って頷く。

 自分たちをうまく使ってほしい――そうレオンにゆだねていた。


「わかった……まずはこれを見てくれ」

 ここまで来てくれた彼らの気持ちを無下にしないためにも、仕事をしてもらおうと思ったレオンは、調査済みの地図を広げて三人に見せていく。


「この赤い丸がついているところは全部空き家で、権利者もいなくて領地に帰属している。つまり、俺が主権利者ってことになるんだ。だから、この家をいくつかチェックして、これぞという家をお前たちの工房に改装してくれ」


 彼らの能力を十全に活かすためには、その力を振るえる場所がなければいけない。

 よって、まずは工房を用意するのが最優先だった。


「なるほどなあ……実際に見てみないことにはなんとも言えないが……俺の考える条件からすると……」

 地図を見て唸っていたダインはおおよその検討をつけていた。


 まずは、周囲に住宅がないこと。

 これは作業音や匂いなどを理由に苦情が入ってしまう。

 次に、水場がある程度近いこと。

 水は様々な場面で使うため、なるべく自然の水を手に入れたい。

 なにより、レオンが住んでいる屋敷の近くがよかった。


「……このあたりを使ってもいいか?」

 しばらく悩んだダインが指さした場所は、ちょうどそれら三つが満たされた場所である。

 問題があるとすれば、建物が少々小さいということくらいだった。


「そのへんの家はどれもあまり大きくないけどいいのか?」

 それを知っていたレオンはその問題を気にして質問する。


「問題ない、な!」

「うん!」

「zzz……」

 三人は同じビジョンが見えているらしく、揃って笑顔になっている。


「問題ないなら構わない。とりあえず、三人には活動する拠点を作ってもらって、それが終わったら売り物になるようなものを作ってもらいたい……問題は素材だな」

 魔物の素材であればかなりの量を用意することができるが、鉱石などに関しては全くといっていいほどアテがなかった。


「あー、それなら問題ありませんよ。ここに来るまでに、この周辺の調査をさせてもらったんですが、良さそうな場所がチラホラ」

 これから住むことになる場所であるため、三人は事前に調査を行って来ていた。

 ガインは笑顔で大丈夫だと胸をたたく。


「さすがだな……」

 仕事の早さにレオンは脱帽している。


「おいおい、先生。なに言ってやがるんだ! 新しい場所に行くときは事前の情報集めが重要だって言ったのはレオン先生じゃねえか。俺たちは教えを守ってるだけだぞ?」

 何を言ってるんだと、肩をすくめたダインは呆れたような表情で言う。 

 自分で言ったことくらいはおぼえていてくれ、と。


「あー、確かに言ったな。だが、それは新しい職場に向かうことになる卒業生にあてたものだったんだ……まさかうちを新しい職場にするようなやつらのためになるとは思ってもみなかったよ」

 さすがに今回のような状況は想定しておらず、未だに大事に教えを守ってくれている三人に苦笑しつつ、胸の内では少し感動を覚えていた。


「まあ、少し時間がかかるかもしれんが、俺たちの今後の予定は工房を作って、住む場所を用意して、鉱石を集めて行くことになる。もちろん、なにか手が必要になったらすぐにいつでも言ってくれ」

 仕事を開始すべく腕まくりしたダインは気合を入れて立ち上がり、弟たちもそれに続く。


「お、おい、もう動くのか……?」

 見たところついたばかりの彼らをねぎらいたかったレオンは、慌ただしい動きに思わず確認してしまう。


「おう、さっきのとこの現場を実際に見ないとだし、すぐになんとかしたいからな!」

 目的を定めた三人は、早速仕事をすべく部屋を飛び出していきそうな勢いで荷物を持ち始めている。


「じゃ、じゃあ、あれだ。夜になったらここの食堂で飯を一緒に食おう。あと風呂もあるから、使ってもらって構わない。ただ、フィーナも使う風呂だからそこは配慮してくれ。住む場所はうちの屋敷でいいのか?」

 自分にできることを考えながら、三人を気遣って勢いよく説明を並べていき、最後に住む場所について質問する。

 少し焦って中腰になっているレオンはただ働きをさせてしまいそうになることが心苦しかったため、少し早口でまくし立てた。


「あー? 飯は助かる。風呂も今日は使わせてもらおう。で、住む場所は工房の近くにするから安心してくれ。ただ、そこができるまでは厄介になるかもしれない。以上だ、それじゃあな!」

 代表してガインがガハハと笑いながらそういうと、三人は出ていった。


「……慌ただしいやつらだな」

「うーん、でもなんか楽しくなりそうだね! 色々作ってもらえそうだし、一気ににぎやかになった気がする!」

 こうと決めたら梃でも動かない彼らに嬉しさを感じつつもレオンはやや呆れた様子で、仲間が増えたと思っていたフィーナはただただニコニコと三人を歓迎しているようだった。


「さて、明日は商人たちが来るはずだから、俺たちは素材の陳列をしておこうか。綺麗に並べてあったほうが見た目がいいから、買取評価も上がる……かもしれないしな」

「オッケー!」

 実際には、買取評価に陳列状態が反映されることはないが、丁寧に扱われているというのはそれだけでレオンたちの評価が高くなる。


 今日も午前中だけで、かなりの量の魔物を倒してきており、マジックバッグから取り出して並べるだけでもかなりの時間を要すこととなった。


 しかし、これをやっておくことで、翌日やってくる商人たちを迎える準備が早々に完了することとなった。


 三兄弟はざっと片づけは終えたが、さすがに寝る場所までは用意できなかったため、屋敷の空き部屋で雑魚寝をしつつ休むこととなる……。

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