第15話
翌朝、二人は森に魔物狩りに行って魔物の素材を集めていく。
普通ならば、これだけ毎日魔物を倒していると魔物たちは避けるようになるものだが、この森ではフィーナを倒そうと更なる魔物たちが気配を察知して集まるという不可思議な現象が起きている。
それゆえに、今日も大量の素材を集めることができ、二人はホクホク顔で屋敷に戻って来た。
「……ん、なんだ?」
「誰だろ?」
屋敷の門の前に何人か座り込んでいるのが見えたため、二人は首を傾げている。
「あ、兄さん。レオン先生が戻られたみたいだよ」
レオンたちに気づいた一人目は長身でレオンよりも背が高い二メートル近い男性。
「おぉ、やっとか。全くまたせおって」
そう言われて振り返った二人目はいわゆるドワーフの特徴である低身長の特徴を持った背の低い髭の男性。
少し不機嫌そうに腕を組んでいる。
「zzz」
門の壁に寄りかかっている三人目はずっと眠っているぽっちゃりタイプのドワーフである。
三人とも同じような薄汚れたオーバーオールに身を包んでいる。
「お前たちは……誰だっけ?」
「「えええええええっ!?」」
「zzz」
レオンの言葉を聞いて、先の二人は大きな声で驚き、もう一人はその最中でも眠りについている。
「ははっ、いい反応だな。冗談だ、もちろん覚えているよ。ガイン、ダイン、ユルルのドワーフ三兄弟だろ? 相変わらずダインはドワーフの中のドワーフだし、ガインはデカいし、ユルルは……居眠りだな」
この三人はレオンの教え子で、長男ダイン、次男ガイン、三男ユルルで一学年ずつ違う。
どの兄弟たちの授業も持っていたレオンは懐かしそうに目を細める。
「で、どうしたんだ?」
どの段階の手紙を受け取ったのかわからないため、レオンは探りから入っていく。
「どうしたもこうしたも、言っただろ? 先生が万が一領主になったら、先生のもとで働くってよ」
「僕も兄さんと同じです。先生のもとで働かせてください」
「……zzz……おいらも……zzz」
それぞれ言葉は違ったが、レオンのもとで働きたいという気持ちは一致していた。
「そういえばそんなことを言っていたような……あの頃は領主になるなんて思ってなかったからなあ」
レオンは教師時代のことを思い出した。
いつか領主になる可能性はあったとしても、こんなに早く、こんな状況でなるとは思っていなかった。
そんなふわっとした自分との会話を覚えていてくれたことで、うれしく感じている。
「なんにしても、こうやって来てくれたのは助かるよ。なかなか厳しい状況でな……立ち話もなんだ、まずは家の中に入ろう。そこでそれぞれの紹介をしようか」
嬉しそうに笑ったレオンはフィーナと三兄弟を交互に見てから、屋敷に視線を移した。
「――とまあ、そういう状況なんだよ」
応接室に通してお茶をしながらそれぞれの紹介を終え、現在の領地の状況を説明すると、口を潤すようにレオンはひと口茶を飲む。
「なんともまあ、それはすごい状況ですね……」
次男のガインは思っていたよりも酷い状況に険しい表情になっている。
「全くだ、なんと面白いことか! こいつは腕の振るいがいがあるじゃねえか!」
それに対して長男のダインはガハハと豪快な満面の笑みで状況を楽しんでいる。
「いやいや、兄さん。人が全然いないんだよ? 領民の人もお年寄りが多いみたいだし、実際の戦力でいえばレオン先生とフィーナさんと僕たち三人だけなんだよ?」
本当に状況がわかっているのかと、困ったような表情でガインは兄に確認する。
「だからこそだ。頭数が多くて、何をすればいいかわかんねえよりずっとマシだろ。少数精鋭ってやつだ。フィーナ嬢ちゃんは戦闘面で、俺たちは作る方面で実力を発揮すればいい。んでもって、一日おきに来る商人たちにものを売りつける。まずはこれで、ここの評判をあげりゃいいんだよ!」
できることが限られているからこそ、そのできることに全力をあげれば結果がついてくる――それがダインの考えだった。
「zzzz」
兄二人が意見をぶつけ合っているところで、ソファに寝転ぶユルルは眠りの世界にいる。
「ははっ、お前たちは本当に変わらないな。いや、確かにガインの言うとおり人がいなすぎる。いなすぎるがゆえに、それぞれのことに集中できるってのはダインの言うとおりだな。お前たちは、どんなものを作ってるんだ?」
変わっていない彼らの様子に安堵しながらレオンは話を促す。
学生時代にも彼らの創作、工作の範囲は多岐にわたっており、興味あるものには片っ端から挑戦していた。
その中で、得意なものを決めていき、それらを専門にしてきていると聞いていた。
「おう、俺は武器防具がメインだな。それ以外にも木工系は色々やってるぞ」
これが長男ガインの専門分野だった。ドワーフらしく鍛冶職人をメインにしている。
「僕は、洋服やローブなんかの裁縫系ですね。あとは兄さんと同じく木工系はやってます。家具とか家なんかも」
身体の大きさに反してダインは細かい手先を使った洋裁を得意としている。
「……彫金系、あとは二人と同じように木工も……zzz」
ぽやっと寝ぼけまなこのユルルはぽっちゃりした身体で、更に細かい作業を得意としていた。
そして、三人が共通して木工系ができると言っている。
「得意分野はわかったんだが、なんで三人が三人とも木工系をやってるんだ?」
これは当然の疑問である。
得意分野を極めればいいのに、それ以外のことにも手を出していた。
学生時代ならまだしも、今となっても複数を選んでいることが不思議だった。
「そりゃ、な」
「うん、ね」
「……うん」
三人はどこか照れたような表情で顔を見合わせている。
「――うん?」
その反応の理由がわからないレオンは腕を組んで首を傾げる。
「あー、わかった! 三人とも先生のためでしょ!」
ぱあっと表情を明るくしたフィーナがびしっと指をさして言い当てたことで、三人の顔が真っ赤になる。
「人を指さしてはダメだぞ、フィーナ……って、えっ? 俺のため?」
当のレオンだけはわかっておらず、目を丸くして驚いていた。
「あのね、家具とかおうちとかって、領地を大きくして人が増えていく中で絶対に必要なことでしょ? で、それを専門にやる人がいるならそれでいいけど、いなかったら自分たちがって思って勉強したんだと思うよ!」
ふふんと胸を張っているフィーナがこれまた完全に言い当てたことで、三人は気まずそうに視線を逸らしている。
「な、なるほど……そんなことまで考えていてくれたのか。それなのに俺ときたら、すぐにわかってやれなくて申し訳なかった。それと、ありがとう」
謝るだけでなく、ちゃんと礼の気持ちを彼らに伝えようと嬉しさいっぱいに微笑んだレオンはそう言葉にする。
「い、いや、いいんだよ。というか、フィーナ嬢ちゃん! わかったとしても、言いすぎだ! 恥ずかしいったらありゃしねえ!」
「ふふっ、ダインさんたち可愛いね!」
今も照れくさそうにしている三人を見て、フィーナはカラカラと笑う。
彼女よりもだいぶ年上の三人だったが、フィーナにはかなわないといわんばかりの反応を見せられ、彼らのことをフィーナは可愛いと思っていた。
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