第17話
翌日もイーライの来訪をレオンとフィーナが迎え入れる。
「レオン様、本日もお時間を割いて頂きありがとうございます。ご注文の品に関しては玄関のほうに運ばせて頂きました」
にこりと人好きのする笑顔を見せたイーライはレオンの登場に恭しく頭を下げて挨拶をすると、食料などの配送も終えたことを説明する。
「あぁ、それは助かる。領地での食料生産がなかなか厳しいからね。それで、今日も色々とあるんだが見て行くかい?」
イーライにも金銭的な都合があるため、レオンは一応確認をとる。
「もちろんでございます! 先日購入させて頂いた素材ですが、あっという間に買い手がみつかりまして、もっと欲しいと追加注文がでたところです! やはり、ここに通い続けてよかったです!」
食い入るように頷いてホクホク顔のイーライは、父から代替わりしてもシルベリアを見捨てずにここに通い続けた自分の判断を誇らしく思っていた。
「それはよかった。今日も色々と仕入れてあるから、また実際に見てもらえるかな?」
「はい、よろしくお願いします!」
彼の即答を微笑ましく思ったレオンは頷いて倉庫へと案内していく。
先客がいたのか、倉庫は既に開錠されており、中には三兄弟の姿があった。
「お? どうかしたのか……おぉ!」
レオンは質問するが、途中で彼らがここにいる理由がわかって、驚きの声をあげ、中に入っていく。
「どうかされましたか? ……おぉ、これはすごい!」
イーライはレオン以上の驚きを見せて、そこに並んでいるものを確認していく。
それらにすぐさまイーライは目を奪われた。
前回までは、魔物の素材だけが並んでいたが、今日は三兄弟が作った特製の装備品などが置かれている。
「昨日は家の片づけだけで手一杯だったんじゃないのか?」
屋敷に止まった理由からそんな風に思っていたため、心配そうにレオンは疑問を三人に投げかける。
「おう、住む方の家は全然だ。ただ、工房のほうは簡易的にでも使えるようにしていたんだよ。で、早速三人で施策がてら色々作ってみたってわけだ。飯食って、部屋案内してもらって、でもやっぱり作りたくて工房に戻って作業して、朝戻って来て――みたいなスケジュールだったな!」
ガハハと笑うダインが胸を張って説明をするが、無理を押していたのか目の下には隈ができている。
「は、はは、さすがにそんなことをしたのは兄さんだけですけどね。僕は屋敷の部屋で続きをやっていましたから」
へにゃりと笑ってそう説明するガインもあまり寝ていないらしく、同じように目の下にうっすらと隈ができていた。
「zzz」
そして、案の定ユルルは壁にもたれかかって眠っていたが、美しい装飾品が並べられていた。
「なあ先生、これ見てくれよ! この剣、魔鉱石が使われていて持ち主の魔力を流して戦闘することで徐々に成長していくんだ。この手法を使ってるのは俺くらいしかいないんじゃないか?」
少し疲れがにじむ顔でダインは自信作をレオンに見せる。
これは事実で、ダインがつい最近編み出した技法であり、誰にも教えることなくシルベリアに来たため、彼のみの技術だった。
魔力を流すといろんな反応を見せる魔鉱石は本来取り扱いがとても難しく、加工にかなりの手間がかかる。
加工できたとしても、そこに成長の要素を追加するには色々と必要な作業工程があった。
「そんな武器の研究をしているという噂は聞いたことがありますが、実現していたのですね! こ、こちらも売り物なのでしょうか?」
素晴らしい装備品たちを前に、話を聞いていたイーライは、ごくりと唾を飲み込みながら目を輝かせてダインに質問するが、ダインはその回答をレオンにゆだねようと視線を投げる。
「そう、だね……誰かに売らないという条件で、かつ質問されたら作るにはかなりの時間がかかるということと、シルベリアでしか手に入らないということを言ってもらえるかな?」
少し考えたあと、ニコリと笑顔で条件を付けるレオン。
この武器があるだけでも、シルベリアに来たいと思う人物は多くなるはずである。
しかし、せっかく自分を慕ってきてくれた三兄弟の体調のことも考えると、いつでも買えると思われるのはよろしくない。
貴重さを保つことも商品の価値を高めると判断した。
「その条件なら呑みます。店に飾れるだけでもかなりの宣伝になりますから!」
これに真剣な表情でイーライは即答する。
一目見ただけで他に売りたいとは思えないほどの逸品だと理解した彼は元より商売よりも自分のものにしたいという気持ちがあったからだ。
「もう一つ、ここは徐々に大きくなっていく。それはフィーナがいることや、この三人がいることでもわかってもらえるかと思うが……」
後から合流したイーライに同行している商人たちは、ガインが作った洋服やフルルが作った装飾品を見て感動している。
それだけ、二人の作ったものも高品質だった。
「だから、こうやって買い取りの交渉をするのは、イーライ、君を通してしたい。君が許可した商人だけがこられるという風にね。もちろんゆくゆくはそのあたりの販路は広げていきたいが、落ち着くまではそうしたほうがいいだろう?」
これはイーライにとっても悪くない条件である。
つまりは、金さえ払って、条件を呑んでくれれば、当面の独占権を手に入れられるというものだった。
「わ、わかりました。こちらの責任がなかなか重くなりますが、レオン様とお仕事をさせて頂けるのであれば是非に!」
彼はいち早くこの領地の、レオンの秘める何かを感じ取って来訪回数を増やしている。
レオンはそんな彼の先を見る目に期待していた。
「あぁ、今後もよろしく頼むよ。一応、このあたりのことはあとで書面にしておくから、次に来た時に確認してもらって納得できたら署名をしてもらう形でいいかな。シルベリア家の専用の用紙で作成して、同じ内容のものを二通作成するから」
今後の流れについて、書面にすることでしっかりと形に残そうとレオンから提案する。
「それは助かります。ただ、内容に関してはしっかりと見させていただきますよ?」
クスリとほほ笑んだイーライは半分冗談で、半分本気で言っている。
レオンのことを信頼し始めているがゆえに冗談を交え、それでも商人として契約内容をチェックする目を持っているということもアピールしている。
「そうしてくれたほうが助かるな。俺が作った内容に漏れや問題がないとも限らない。盲目的に信じるんじゃなくて、しっかりと自分の目で確認してもらいたい。そして、さっきも言ったがちゃんと契約内容を呑むことができたら、署名をしてくれ」
決して急かすのではなく、あくまで精査したうえで答えを出してほしいとレオンはイーライの目をしっかりとみて告げる。
「はい! 私のほうでも、戻ってわが社の者たちから意見を集めてよりよい契約になるよう考えてみます。それでは失礼します!」
品物の買取に関しては、部下や他の商人が手続きを終えており、イーライは満足そうに帰っていった。
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