第13話


 話を詰めていく中で、さすがに毎日来るのは難しいということで、彼らは一日おきにやってくることになった。


 毎回初日と同等程度には素材を用意しておくので、次からはその中で必要なものだけを買って行くかたちとなる。

昨日と今日に関しては、とにかく質の高い品を仕入れたいという想いで全部買って行ったが、さすがに毎回となると金銭的に厳しいというのが彼らの本音だった。


 それでも、彼らが買って行った素材が売れれば、その金でこちらのものを購入していくという話だった。


「――ふう、突然のことで驚いたがなんとかいい話にまとまったな」

 商人たちが帰った後、レオンとフィーナは応接室でソファに身体を預けて力を抜き、ぐてーっとなっていた。


「なんか疲れたねえ。どうやって手に入れたのかっていっぱい聞いてくるからいっそのこと、言っちゃおうかと思ったよ……」

「ははっ、付き合わせて悪かったな。フィーナのことを教えてもよかったんだが、隠し玉としてとっておきたかったんだよ。フィーナはすごく強い。だけど、いいように使われるのは癪じゃないか」

 レオンは生徒のことを大事に思っているがゆえに、軽々しく彼女の名前を使おうとしなかった。

 そんなレオンの気持ちを感じ取ったフィーナは嬉しそうにはにかんだ。


「それはそれとして、今日はどうする? 俺は空き家の調査をしようと思うんだが……」

 商人たちがやってくることで待機する場所や作業する場所、帰るのが遅くなった場合に備えて泊まる場所も必要になる。

 これらを考慮して、空き家の調査をして、完全に権利を放棄した家を彼らの作業スペース兼宿泊施設にしようとレオンは考えていた。


「そっかあ、じゃあ私は今日も魔物狩りに行ったほうがいいかな? また明後日、商人さんたち来るんだよね?」

 それが彼らとの約束になっていることを考えると、フィーナが魔物を狩りに行くのは当然の流れである。


「そうだな、そっちを任せられると助かる。俺の方は人を迎え入れられる準備を始めるよ。明日にはこっちも手伝ってくれるとありがたい」

「もちろん任せて!」

 レオンが頼ってくれることにフィーナは喜びを感じており、元気よく返事をした。




 昼食は、商人たちが売り物としてもってきてくれた食材からレオンが料理を作ってすませ、二人はそれぞれの場所に向けて出発していく。


「……っと、この家も権利を放棄していたな」

 地図と書類を合わせて見ながらレオンは領地を見て回っていた。


 権利の放棄とは、家と土地の所有権を領主であるシルベリア家に返上するものであり、その土地をどう使ってもシルベリア家の自由となる。


「はあ、自由に使えるのは助かるには助かるけど、つまるところ人がいなくなったってことだからなあ……」

 嬉しくもあり、悲しくもあるという状況に、レオンは思わずぼやいてしまう。


「レオン様、お散歩ですか?」

 穏やかな口調で話しかけてきたのは数少ない残ってくれた領民の老人である。

 ずいぶん前に彼は妻をこの地で亡くした。

 しかし、妻が愛したこの地を離れるようなつもりにはなれず、骨を埋める覚悟でいるようだった。


「えぇ、散歩がてら空き家の状況整理をしています。そうだ、しばらくは商人がやってくる頻度があがるので必要な物があれば言って下さい」

 現状をできるだけ誤解のないように説明していく。

 彼のような領民を大事にしていき、ゆくゆくは大きな力のある領地にしたいとレオンは誓っている。


「おぉ、それは助かりますな。色々とこまごましたものが足りなくて困っていたところですじゃ。いや、レオン様が戻ってきてくれて本当によかった……」

 彼はこの地が誰か知らない者の領土になるか、このまま滅んでいくかと心配していた。

 そこで領主の息子であるレオンがやってきてくれたことで安心していた。


 しかも、その彼は領民のことを考えて動いてくれているようであると感じ、余生を過ごしながら見守っていた。


「そう言ってもらえると嬉しいですが、まだまだ何もできずにいるので、少しでもシルベリアを良い領地にしていけるように頑張ります」

 彼のように残ることを決めてくれた領民が少しでも、残ってよかったと思えるようにこの地を発展させていきたいとレオンは考えていた。


「それはそれは、なかなか厳しい現状かと思われますが、どうぞよろしくお願いします。わしらは、ここに残ると決めた時点でレオン様と運命をともにする覚悟です。じゃから、我々のことは気にせずにやりたいようにやってくだされ」

 領民に気を遣うあまりに、重大な決断が下せないとなるということは避けたいと、領民たちの代表として彼が話す。


 彼は若い頃に妻の故郷であるこの地にやってきた。

 それからはみんなのまとめ役を買って出たりと、実際に代表の立場を担っていた。


 それゆえに、彼がこう言ってくれるのはレオンにとって心強かった。


「お気持ちありがたく受け取ります。もしかしたら、色々な者がここにやってきて少し騒がしくなるかもしれませんが……」

 レオンが申し訳なさそうに言うと、老人は首を横に大きく振る。


「わかっております。レオン様がお連れになっているお嬢さん。あの子は見た目に反してすごい方のようじゃ。レオン様には人望があるようにお見受けします。きっと彼女のように慕ってくる方が集まるでしょう。わしらにとっては賑やかなことはよいことです、騒がしさ、どんとこいですじゃよ」

 彼はニコリと笑い、むしろ騒がしさを期待しているようだった。


「ははっ、発破をかけられましたね。頑張ります!」

 つられるように笑顔になったレオンはそう告げると老人に頭を下げて、調査に戻って行く。

 開始当初はどことなく重い足取りだったが、そこからは快調な足取りで進むことができ、調査速度も格段にあがっていた。

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