第12話
商人たちがやきもきしている中で、ついに最後の一台が到着して部屋の中へと駆け込んでくる。
「も、もうしわけありません! その、馬車の車輪が途中で壊れまして……」
「無事について何よりだが、まずはレオン様に言うべきことがあるだろう」
最後に到着した商人は申し訳なさそうに低く頭を下げて謝罪している。
この言葉には嘘は一つもない。
しかし、待たされたイーライたちからすれば、遅れたこと自体が問題だった。
遅れて焦っている商人は、慌てて謝罪をしようとするが、まずはレオンが優先であるとイーライに叱責される。
「す、すみませんでした!」
あまりの申し訳なさでいっぱいになった彼はその場で土下座を始めた。
「い、いや、別に気にしていないから構わないさ。それより、これで全員か?」
彼のことを怒っていないレオンは、とにかく話を先に進めようと確認をとる。
「はい、総勢十二名になります」
部屋の中にいた者、外で待っていた者と先ほどまでバラバラだったが、今は部屋の中に全員が集合していた。
「それじゃあ……イーライ、すぐに素材いるか?」
ここは素早く切り込むべきだと踏んで、余裕を見せてふっと笑うレオンに、イーライは目を丸くする。
「ま、まさか、昨日の今日で素材があるのでしょうか?」
昨日買い取ったものでも、かなりの量であり、本来ならば時間をかけて手に入れるものである。
いくら心から信頼しているレオンといえども、昨日の今日でまた素材があるという言葉が信じられなかった。
「あぁ、あるぞ。見るか?」
今度の問いかけには商人たちは素直に頷いている。
「それじゃ、こっちに来てくれ」
「いこー!」
商談に手ごたえを感じているレオンに、笑顔のフィーナが続き、そのあとを商人たちがぞろぞろとついていく。
屋敷の裏手にある倉庫に到着すると、レオンは鍵を取り出して扉をあけた。
それと同時に、倉庫内の魔道具が発動して灯りが点灯し、中になにがあるのかが明らかになっていく。
「おおおおお!」
最初に見えたものから歓声があがり、他の者たちもそれに続いた。
少なくとも五十以上の魔核が傷も見られず、キラキラと強い輝きを放っている。
そのサイズも大きく、どれも強力な魔物の核であることがわかる。
その隣には魔物の毛皮が並んでいる。
狼種、ボア種、熊種などなど、多くの種類のものが並んでおり、調度品、装備品、バッグなど、なんにでも使える質の高いものがほとんどである。
それは、更にその隣に並んでいる角、牙、爪、骨なども同様で、強度の高いものや、今でも魔力を帯びているものなど、希少なものが多い。
「さあ、入ってくれ。これらは今朝獲って来たものなんだ。これだけあれば、欲しいものも少しはあるんじゃないかな?」
レオンが入室を促すと、商人たちはこぞって続々と入っていく。
彼らはレオンの声が聞こえてるのか聞こえていないのか、素材を手にして興奮気味に状態の確認をしている。
みんな手袋をしており、丁重に扱っているため、傷がついたりするようなことはないため、安心して作業を見ていることができる。
レオンはしばらく彼らが鑑定しているのを眺めて、十五分ほどが経過したところで声をかける。
「とまあ、色々見てもらったところで、これらを全部買い取ってもらいたい。どうだ?」
「っ……全部!?」
まさか、全てが売りに出されるとは思ってもみなかったため、イーライは驚いている。
「別にいらないならそれでいいんだが……」
「いやいや、いります! 是非買い取らせて下さい!」
ここにあるレベルの品物を同じ量集めようとしたら、Aランク以上の冒険者を大量に集めて、かなりの時間をかける必要があった。
ゆえに、商人たちの中で、これだけの素材を買い取りたいという気持ちが盛り上がってくるのも当然のことである。
「ざっと見て、本物であることと、品質は確認してもらえたんだろう?」
この問いかけに、商人たちは全力で頷いている。
最高品質であるという保証を全員が請け負っていた。
「それじゃ、ここからは交渉といこうか」
あくまで冷静に、少し笑ってそんな風に告げる。
「こ、交渉、ですか?」
イーライの父の頃は単純に売買をするだけの間だったと聞いており、彼も良い物が買えればいいと思っていただけに、交渉という言葉にやや怯んでしまう。
「そんなに構えなくていいさ。俺はここに戻って来たばかりだ。帰ってきたらうちの領地はこの有様で、見てのとおり色々と足りないものが多いんだよ」
身構えるイーライにレオンは困ったように笑って話す。
それは人であり、物であり、施設であり、色々な物が足りない。
「確かに、そうですね……」
これは周知の事実であり、彼らも現状を理解していた。
「店も宿もなくて困っていてね、君たちには毎日ここにきてもらいたいんだ。どうかな? それを飲んでくれるならここにある素材は全て君たちに売るつもりだよ」
レオンが提示する条件は魅力的なものであり、商人たちにとって難しい内容ではない。
が、問題はこのやはりこの領地にある。
昨日、今日、と二日連続でこれだけ大量に、しかも高品質な素材があるのは魅力的なことだが、これがいつまでも続くとは思えない。
しかも、物を売りに来たところで今は数少ない領民とレオンたちしかいないとあっては、儲けには繋がらない。
(悩んでいるみたいだな……もう一押しというところか)
「わた……」
フィーナが自分はSランク冒険者だと告げて、流れを持ってこようとするが、それはレオンが彼女の手を軽く引っ張ったことで止められる。
その情報を出すのはまだ早い、とレオンが首を横に振り、フィーナはその意図を汲んで口を閉じると、黙って頷く。
「ここは何もない場所かもしれないが、しばらくはこのレベルの魔物の素材を提供できると思う。それは確実だ。そして、できなくなる理由は他にもやることができるからだ」
フィーナの情報を出す代わりに、レオンは戦う力は十分にあり、素材を用意することもできると断言する。
現段階では確実にある、と。
「そ、それは……」
これだけのレベルの素材を独占できるという魅力的な条件をレオンは提示している。
そして、ここに行商に来るペースをあげればいいという条件だけを彼は望んでいる。
「約束する。君が俺の領地で商売してくれるなら決して損はさせないし、きっと早めに俺との繋がりを持っておいてよかったと思うはずだ」
レオンは現在の自分が出せる、最も強い言葉と気持ちを合わせてイーライにぶつけた。
「……わかりました。私は毎日ここに来ましょう。ですが、他のみんなは各自の判断で」
面と向かってレオンの目を見ながら言葉をぶつけられたイーライは、この人物なら信頼しても大丈夫だと強く思わされていた。
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