第9話
昼過ぎになって、一度森を出た二人は川のほとりで食事休憩をとることにする。
「んー、結構狩れたねえ」
「あぁ、マジックバッグの中もかなり大量だ」
森の中ではフィーナの持つ魔力に惹かれて魔物が大量に現れたが、それに負けない戦闘力の高さによって魔物があっという間に倒されていった。
更にレオンも数をこなしていくことで解体技術が向上していた。
それら全てが相まって、午前中だけで満足できる量の魔物の素材を集めることができた。
「とりあえず、お疲れ様ということで昼飯を食おうか……その前に、川で手を洗おう」
「はーい!」
心地よい空腹に襲われたフィーナはレオンの提案に元気よく手を上げて返事する。
緩やかにせせらぐ川の水は綺麗で、底が見えるほどに透き通っている。
「……この水ってすごく綺麗だけど、どこから来てるんだろうね?」
清涼な水で手を洗いながらふと、そんな疑問をフィーナが口にする。
別に何かを考えたわけではないようで、ただただ頭に浮かんだことを言っただけのようだった。
「確かに……なんでこんなに綺麗なんだ? 畑は枯れてる。周囲の森や山や谷は魔物が大量にいる。それなのに、この川の水だけは綺麗だな」
レオンにとってはそれまで当たり前にあったものだったため、特に気にしたことがなかったが、周りの状況を考えると少し違和感を覚えた。
これだけ周囲に魔物がいる場所であれば、魔素の影響などを受けて水にまで影響が出てしまうはずである。
にもかかわらず、この水は川魚がすいすいと泳ぐ姿が見えるほどの水質だった。
「……ふーむ。フィーナ、午後の予定は決まってるか?」
なにか考えが浮かんだレオンは川に視線を向けたまま質問する。
「んー、魔物と戦うくらいしか考えてなかったけど、なにかあるならそっちに行ってもいいよ!」
とにかく財政面と安全面をなんとかするために、魔物を倒そうと考えていたフィーナは午後も魔物と戦うつもりだったため、他に予定はなかった。
「だったら、少し遠足にでも行くか。といっても川がどこに繋がっているのかを見に行くだけなんだが……」
「行く!」
自分が気にしたことがレオンの行動に影響を与えたことと遠足というワードが嬉しく、元気よくフィーナは即答する。
実際、かなりの数の魔物を討伐したため、しばらくは豪遊しても困らないだけの素材は確保できており、他の活動に時間を割ける余裕があった。
「よし、それじゃあ飯を食ったら、一度家に帰って荷物を置いて再度出発といこう」
「おー!」
次の目的を定めた二人は昨日フィーナが獲ってきたエアリーボアの肉で作ったカツを挟んだサンドを食べていく。
時間停止機能付きのマジックバッグは、作り立ての味を保ってくれていた。
「んー、美味しっ! お肉がすごく柔らかくて、衣もサクサクだよ!」
凝った料理を作ることはできず、昨日の肉を切って衣をつけて揚げただけだったが、フィーナは満足している。
「確かに美味い、がこれは肉がうまいだけだな。下味付け忘れた……ソースの味で誤魔化せてるけど……」
多少の料理はできるといっても、今までは自分のためにだけ作っただけであり、まずくても我慢することができた。
しかし、今回はフィーナという食べさせる相手がいるため、もう少しうまくやれただろうにと反省をしている。
「そう? 普通に美味しいと思うけど……ねえ先生、まだ食べてもいい?」
バスケットの中にはまだいくつか残っており、たくさん動き回っていたフィーナはまだまだ足りていないため、確認をする。
「ははっ、いいぞ。残りは全部食べてくれ。これはこの一つと、こっちのデザートのフルーツで十分だ」
単純な運動量では圧倒的にフィーナのほうが多く、戦闘でかなりの魔力や体力を消費しているため、それだけ空腹になってしまうのはわかっている。
ゆえに、レオンは少しでも多く食べて欲しいと笑顔で残りを分けてあげた。
「いいの? 先生、お腹空いちゃわない?」
嬉しさと少しの申し訳なさで、フィーナはサンドを手に取りながらも、レオンの様子をそっと窺っている。
「あぁ、問題ない。カツの脂が少しもたれるから、俺はこんなもんで十分だ」
まだまだ若いフィーナとは異なり、なんだかんだそれなりの年齢のレオンは胃もたれを気にするお年頃だった。
彼女が気にしなくてもいいようにお腹を押さえながら笑顔を見せる。
「ふーん、じゃあ遠慮なく……美味しい!」
フィーナは許可が下りたことで遠慮なく大きな口を開けて口いっぱいにカツサンドを頬張った。
レオンは出来をいまいちだと思っているようだったが、大好きな先生であるレオンが作ってくれたことと、空腹だったことも相まって、彼女にとっては美味しい食事となった。
その後、昼食を食べ終えた二人は、デザートにカットしたフルーツを食べて、休憩をしてから動き出す。
「さてと、まずは家に帰るぞ。なにがあるかわからないから、カバンを空けておきたい」
現在はかなりの量の素材がカバンに詰まっているため、家の倉庫に移しておきたかった。
「そのまま持っていったんじゃダメなの?」
フィーナはこのまま行った方が楽でいいと思っていたため、きょとんと首をかしげている。
マジックバッグの容量はまだまだあるため、仮に今回の遠足で何かを見つけたとしても余裕で持ち帰ることができるはずだと思っていた。
「できれば、今日のうちに素材を倉庫に入れておきたいんだが、帰ってきてからやるのはちょっとな……」
疲れて帰ってきて、それでもまだ作業があるというのは案外負担になるため、先に片付けておきたかった。
自分の年を感じながらレオンは苦笑している。
「なるほど! 確かにそうだね。それじゃ、まずはおうちに帰って、そこからおでかけだー!」
細かいことを気にしないフィーナは先生がそう言うならと笑顔で頷く。
そして遠足を心待ちにしているからか、嬉しそうに腕を突き上げたフィーナはとてもご機嫌だった。
冒険者として活躍してきた彼女は、依頼をこなすために活動しており、昨日と今日も魔物を倒すために出かけている。
だから、気ままに出かけるということに憧れを持っていた。
それも、誰かと一緒にというのは心踊るものであり、その相手がレオンともなると気分は最高潮だった。
「ははっ、やけに元気だな。まあ、今回はなにも見つからなくてもいいから余裕を持って行こう」
「はーい!」
あくまで遠足という側面を強く考えて、なにかあったら楽しいなくらいの軽い気持ちで二人は一度屋敷へと戻っていった。
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