第8話 グレートマンティス


 手紙を出し終えたレオンは、今日も森で魔物退治をするというフィーナに同行していた。


「よいしょっとー!」

 細身の少女であるフィーナの大剣での一振りは、魔物を数体同時に倒していく。


 昨日の戦いでも見たが、フィーナは剣に魔力をのせて衝撃波を放つ攻撃を得意としている。

 広範囲におよぶその攻撃は気持ちいいほどにサクサク魔物を倒していた。


「さすがだな……」

 その活躍を見ながら、レオンは魔物の解体を行っていく。

 昨日の魔物は全てフィーナが解体してくれたが、少しでも役に立てることはないかと考えた末に、レオンが解体を担当することなった。


「先生、本当に昨日まで解体したことないの?」

 昨日の今日で、するすると解体していく様を見て、フィーナは驚き疑っている。


「あぁ、今日が初めてだ。でも、昨日フィーナがやっていたのは見せてもらったし、魔物の構造については教えるために勉強しておいたからな。意外となんとかなるもんだ」

 話しながらも集中は切らさずに手際よく作業が進む。


「一度見たからってここまでできるのはすごいよ! 傷もついてないし、綺麗に素材がとれてるよ!」

 これまで何百体もの魔物を解体してきたフィーナから見ても、それは見事なものだった。


「これくらいはさせてもらわないと申し訳ない。それに、フィーナが倒して、俺が解体すれば効率もいいだろ」

 実際に、ここまでかなり効率が上がっており、フィーナも戦闘に集中できるのは大きなことだった。

 しかも、今回は教員時代に購入したマジックバッグを持ってきており、大量の素材を自由に持ち運びできるように準備してきている。


「確かに、ここの魔物はかなり強力だから私がずっと戦闘に集中できるのはいいね!」

 この森は長年手付かずだったためか、強いだけでなく、数も多い。

 倒した魔物をそのままにしておくわけにもいかないため、適宜解体している間にも狙われる可能性がある。

 ここでレオンが解体を担当することで、フィーナはいつでも魔物に対応できる状態でいられた。


「ほい!」

 今も、レオンの後方十メートルほどの場所に魔物が現れて、その魔物にフィーナが石を全力で投げていた。


「うわ……えぐっ」

 と思わずレオンが口にしてしまうほど、酷い結果を生み出していた。


 魔物はグレートマンティスと呼ばれる巨大なカマキリの魔物であったが、フィーナの投げた魔力のこもった石が頭部を直撃してぐしゃぐしゃになって倒れていた。


「ま、まあ、こういうこともあるよね! ほ、ほら先生! 確かあの魔物もいい素材が……とれた気がするよ!」

 自分でも酷いことになったと思ったフィーナは慌てた様子で、レオンに解体を促していく。


「あぁ、わかってる。グレートマンティスも討伐難易度は高くて魔核が高く売れるはずだ。それと、カマは特殊素材で武器なんかにも使われるな。眼が残っているといいんだが……」

 魔物の生態についてもレオンは教えるための知識を持っており、グレートマンティスは彼の中では比較的有名な魔物で採取部位もわかっている。


「えっ? 眼なんか何に使うの?」

 フィーナはおおよその知識だけで魔物と戦っているため、細かい用途などはもちろん知らない。


「んー、遠見の魔道具なんかで使うらしい。ただ、傷がないものだけしか使えないらしいがな。グレートマンティスの目は複眼っていって、かなり広範囲を見ることができるんだ。それが魔道具にするといい効果を発揮するんだとさ」

 教師時代のことを思い出してそう質問に答えながら、レオンは頭部がぐしゃぐしゃになったグレートマンティスの解体を行っていく。


 魔核は綺麗にとることができた。

 カマも多少の傷はあるものの、美品として手に入れることに成功する。


 ただ、頭部を破壊して倒した為、眼は……。


「片目はダメだな……潰れてる。もう一つのほうは……お、思ったより綺麗だな。こいつで使えるのはこんなもんか」

 レオンは必要な部位を手に入れると、それらを全てマジックバッグにしまっていく。


「はー、先生すごいねえ。知識もそうだけど、自分でやったことながらあんなぐしゃぐしゃになった魔物にものおじせずに近づいていくなんて……」

 フィーナは自分だったら放置しておくなあと思いながら、レオンの度胸に驚いていた。


「まあな、命を奪った相手なわけだし使えるものは使わないと申し訳ない。それに、これくらいのグロさは別に言うほどでもないさ。腐ったりしたら目も当てらないぞ」

 レオンは素材の回収を終えると、グレートマンティスの死体に火をつける。


 攻撃するほどの威力はないが、少し火をおこす程度の魔法は使うことができるため、こうやって解体した魔物の死体は焼却していた。


「それってやっておいたほうがいいの?」

 魔物を燃やすのは、腐敗を防いだりアンデッド化を防ぐためにやるというのはフィーナも知っていたが、必要性をあまり感じていなかった。


「んー、まあアンデッドなんてそうそうなるもんじゃないし、腐敗する前に他の魔物が食ったりするから実のところはそんなに問題にならないことが多い」

「じゃあ……」

 なんでそんなことをレオンがしているのか? フィーナは単純に疑問に思っている。


「俺がやるのは、可能性の芽は全て潰しておきたいのが大きい。可能性は低いがアンデッド化は極稀にある。腐敗すれば土壌が汚染される。ここは特に俺の領地だからそんなことにはなってほしくないんだよ」

 ただでさえ強力な魔物たちがアンデッドになってしまえば、別の力を得ることで、より面倒な敵になってしまう。

 自分の領民たちが安心して過ごせるようにできうる限りの手は尽くしておきたいというのがレオンの考えだった。


「なるほどー……うん、わかった。私もこれからはそうするね!」

 自分では持つことのなかった視点をレオンの言葉によって得ることになったフィーナは、自分の行動が与える影響について少し考え、結果自分も焼却すると結論づける。


「まあ、少なくともうちの領内ではそうしてくれると助かる。今日は俺が一緒だけど、今後も一緒にこられるかはわからないからな」

「わかった!」

 レオンの言葉をフィーナは素直に受け入れる。


 もちろん、ただただ彼の言うことに従うわけではなく、正しいと思ったからこその受け入れである。

 昨日のようにおかしいと思えば意見をする。


 それをしてくれる人物がいるだけでも、レオンにとってはかなりありがたいことだった。


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