第6話 地下に収納


 フィーナは取り出したナイフでエアリーボアを手際よく解体していく。


 皮をはぎ取っていき、肉と骨と内臓をどこからか出したシートの上に取り分けている。

 その手際の良さにレオンは思わず見惚れてしまう。


「あ、これは先生にかな。ほら魔核。エアリーボアも結構希少だから高く売れるんじゃないかな」

 作業しながらフィーナはそう言って、ぽいっと核を放り投げてくる。


「おっとっと、これは確かに見事だな、空の空気を吸っていたからかすごく透明感がある……洗うか」

 まだ血や肉がついた状態であるため、レオンは外にある水道で魔核を洗い流していく。


「うん、綺麗だな。せっかくだから、これは俺の部屋に飾っておこう」

 デスウルフの魔核は大量にあり、そこまで珍しくなかった。

 しかし、こちらはせっかくフィーナがレオンのためにとってきてくれた魔物であり、希少性も高いため、売らずに保存という選択肢をとる。


「……えっ? それも売っちゃえばいいのに」

 デスウルフと比較してもいい値段で売れるエアリーボアの魔核である。


「いいんだよ。それより、肉をより分けないとだな。料理に使う分だけ出しておいて、あとは保存しておこう。さすがに二人で食べるには多すぎるからな」

 そう言うと、レオンは魔核を厨房内のわかりやすい場所に置いて、テーブルを外に持ってくる。


「まずこの保存用に使う紙に肉を乗せて、巻いてを何度か繰り返してから保存用の容器にのせる。そうしたらここに氷を入れて、更に冷蔵用の魔道具の中にしまう」

 誰にともなく説明をしながら、レオンは手際よく肉を梱包していく。


「ただ、今回は数が多いから、魔道具以外にも肉をしまっておく場所が必要か……フィーナ。お前、確か氷魔法も使えたよな?」

「使えるよー! 先生が直接教えてくれたのが氷魔法だったからね! あれからこの魔法はすっごく練習したから、かなり使えるんだ! なになに? なにを氷漬けにすればいいの?」

 解体の途中だったが、フィーナは手をかざして氷魔法を使う準備に入っている。


「あー、氷漬けにはしなくていいんだ。だけど、これくらいのデカイ氷の箱って作れるか? 肉をしまっておきたいんだ」

 さすがにここの厨房の冷蔵魔道具だけでは保存しきれないため、氷の箱に直接しまう方法を考える。


「なるほどね、うんうん、それなら簡単だよ。ちょっと待ってね……」

 フィーナはナイフと手を洗ってから戻ってくる。


「どのへんに作ればいい? かなり重くなるから持ち運びは難しいと思うんだよね。だから、先に置く場所決めておきたいな」

 フィーナはキョロキョロと厨房内を見ていく。


「ここ」

 レオンが指さしたのは厨房の床の一部。


「えっと、ここに作ると通行の邪魔になるといいますか……」

 さすがにレオンの指摘や指示がいつも的確といえど、厨房のど真ん中を指さされては、フィーナも思わず敬語になってしまう。


「いやいや、ここにほら、フックがあるんだよ。指がひっかけられる。んでもって、これを思い切り持ち上げると!」

 地下の収納空間が姿を現した。


「ふえええ、こ、これはすごいね」

 フィーナは首を突っ込んで、上にいながら下を覗き込む。


「あぁ、ここならそもそもの気温も低いから氷の箱も溶けないはずだ」

 ひんやりとした空気であり、食べ物の保存に向いている。地下だが空気清浄の魔道具によって一定水準の綺麗な空気を保っていた。


「いいねえ、秘密基地みたい! じゃあ、ここにいくつか氷の箱作ればいいかな?」

「頼む」

 そこからはフィーナの仕事は早く、あっという間に巨大な氷の箱を五つほど用意してくれた。


「助かる。これなら食料の保存がかなりできるぞ。とりあえず、今回の肉をしまっていこう」

 レオンはそこにすぐには使わない肉をしまっていき、解体を終えたフィーナは骨や毛皮や爪などを綺麗に洗っていく。


 結局二人が食事にありつけたのは、それから二時間後のことになる。


「美味しい!」

 一口食べた瞬間、肉はとろけて、あっという間に口の中から消える。それほどに柔らかくジューシーな肉だった。


「ははっ、喜んでくれたみたいでよかった。肉は焼いただけ、あとは塩と簡単なソースしかないがな。あんまりレパートリーがなくてすまんな」

「ううん! すっごく美味しいから大丈夫! パンまで用意してくれてありがとね!」

 こちらのパンは、一定期間ごとにやってくる商人より買ったものであり、少し硬くなっている。


 それでもソースにつけると、うま味が増して満足する味になっていた。


「喜んでくれてよかったよ……ただ、料理の面も改善したいところだな。俺ができるのはあとは干し肉と、スープを作る程度だ。せっかく食材があっても活かせないと……」

 考え込むレオンをよそに、フィーナはガツガツと食事をすすめていく。


「モグモグ、悩んでいるっていうのに、なんだか先生楽しそうだね!」

「そ、そうか? ……いや、そうだな。確かに楽しいと思っている。なんというか、確かに色々と足らないものは多いんだが、フィーナが来てくれてから視界がクリアになったんだよ」

 フィーナの指摘に、レオンは自分が楽しくなっていることを改めて実感する。その最大の要因がフィーナだった。


「私? なんで?」

 しかし、当人は理由がわからず小首を傾げている。


「うーん、なんていうか。帰ってきた時は俺一人だけで、なんとかしようと奮い立たせようとしてはいたものの、前途多難って感じだったんだ。でも、フィーナが力を貸してくれるならやれることも増えるし、なにより心強いんだよ」

 このレオンの素直な言葉に、フィーナは顔を真っ赤にしている。


「ただ、フィーナを使う俺がもっと視野を広げていかないとだ。うん、立て直す方法はきっとあるはずだ!」

「そうだよ! 世界最高の冒険者がいるんだから、ドーンッと大船に乗ったつもりでいこう!」

「「おー!」」

 二人の意思が重なり、前に向かっていくこととなる……。

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