第5話 今後への光明


「ふっふーん、先生のとこの紅茶美味しいね!」

「そうだろ。頑張ってくれたから特別にいい茶葉を出したんだ」

 戦いを終えて戻ってきた二人は執務室でティータイムを楽しんでいた。


 表情はどちらも明るいものだった。

 その理由はテーブルの上に山積みになっている魔石にある。


「いやあ、デスウルフの魔石がこんな大量に手に入ると助かるなあ。しかも、魔物の駆除にも繋がっている。いいことだ」

 治安が完全に改善したということではないが、あれだけの数の強力な魔物がやられたとなれば、森にいる魔物たちも警戒してしばらくは外に出ようとしないはずである。


 加えてAランクの魔物の魔石ともあれば、一つ一つがかなりの値段で買い取ってもらえる。

 つまり、当面の財政面の問題を補うことができる。


「うふふっ、でしょ? ねえねえレオン先生! 私、早速役に立ったよね?」

 自分の力が役に立ってご機嫌なフィーナは褒めて欲しいと、キラキラと目を輝かせながら身を乗り出す。


「あぁ、よくやってくれた! でも本当にいいのか? これをうちの成果にしちゃって……あいつらを倒したのはフィーナ一人で、俺は見ていただけだぞ?」

 頭を撫でながら困った表情のレオンが確認すると、フィーナが頬を膨らませる。


「もう! せっかくいい気分なのにぶすいなこと言わないでよ! 私はレオン先生の部下になったんだから、使ってくれればいいし、私の成果は先生の成果なの! わかった?」

 自分の立場を、仕えると言った宣言をちゃんと覚えていてほしいとフィーナは怒っている。


「わ、わかった。悪かった……それから、ありがとうな」

 先ほどの言葉は申し訳なさから出たものだったが、彼女の思いを無下にしたものであるため、改めて感謝を伝える。


「えへへー」

 聞きたかった言葉をレオンが言ってくれたので、フィーナは満足そうに目を細めて頭を撫でられる感触に浸っていた。





 しばらくそれを続けていたが、レオンの右手が疲労してきたため切り上げることとなる。


「なんにせよ、フィーナが来てくれたことで光明が見えてきた。悪いが、お前の知名度も全力で使わせてもらうぞ」

「どうぞどうぞー、先生の役にたつならなんでもいいよ!」

 レオンには考えがあり、そんな彼が悪いようにすることはないだろうとフィーナは信じている。


「これで、当面はなんとかなる。が、やはりその場しのぎにはなるか。フィーナの活動をどうしていくかと、今回手に入れたものを有効活用して領地の復興に繋げていきたいものだ」

 フィーナ自身が部下になるから使ってくれと言ってくれているため、レオンも遠慮は一旦しまっておき、彼女の力を有効に使う方法を考えていこうとする。


 そう考え始めた時、低くうなるようなギュルギュルという音が部屋に響く。


「っ……な、なんだ!?」

 そんな思考を遮るような大きな音が聞こえてきたため、レオンは慌てて立ち上がると周囲を確認する。


「にゃはは、今のは私のお腹の音だよ。ずっとご飯食べずにここまで来たからねえ、さっきの戦いもあったし、紅茶を飲んでお腹が刺激されちゃったみたい……」

 恥ずかしそうに顔を赤らめつつはにかんだフィーナは腹を押さえている。


(食事もとらずにうちに向かってくれたのか……)

 そんな彼女の気持ちをレオンはなによりも嬉しく感じてている。


「よし、わかった! フィーナが持って来てくれたエアリーボアを料理するぞ!」

 レオンが力強く宣言する。


「おー!」

 それに賛同するようにフィーナも右手をあげながら応答する。


 だが、ここでフィーナは一つ気づいてしまう。


「もしかして……レオン先生が料理をするの?」

 屋敷に来てから誰にも会っておらず、話している間に誰かが訪ねてきた様子もない。 

 つまり、この家にはレオンとフィーナしかいなかった。


「そうなるな。父が亡くなってから使用人も全員出て行ってしまった。この家には俺しかいないから俺が作るよ。まあ、学園の教師領では自分で作っていたからそれなりには料理もできるから安心してくれ」

 既に二人は部屋を出て、廊下を歩きながら話をしている。


「わあ、すごい! みんなの指導をしながら、自分のことを全部やってたの?」

 レオンの学園での生活を知っている者であれば、誰もがこの事実に驚く。


 昼間は授業を、放課後は補講や相談にのったりなどで時間がつぶれてしまう。

 それにもかかわらず、レオンが学園でキッチリした服装でいた。


 それらを全て自分でやっていたともなれば、驚愕に値する。


「ん? いや、それは当たり前だろ? 他の先生方もみんなそのようにしてたはずだ」

「いやいや、そもそも他の先生は放課後、生徒にそんなに時間を割いてなかったんだよ! あんなに付き合ってくれたのはレオン先生くらいだよ?」

 本当にわかっていないの? とフィーナは首を傾げながら説明する。


「そ、そうだったのか……みんな同じように仕事をしているものだとばかり……」

 レオンは全力で生徒のことを考えて動いていたため、他の教師がどんな対応をしているのかまでは見えていなかった。


「ふふっ、そういうところがやっぱレオン先生だよねえ。ところで先生……」

「ん?」

 フィーナがなにか言おうとしたタイミングで、レオンは厨房の勝手口を開く。


「料理はできるって話だけど……それの解体できるの?」

 彼女が指さした先には巨大なエアリーボアが鎮座していた。


「……そう言われると、さすがに解体の経験はないな。運ぶのも俺の腕力では無理だな」

 改めてエアリーボアを前にするとその大きさがわかる。


 平均以上の身長であるレオンよりも大きく、重量もかなりのものである。


「だったら私が解体するね!」

 フィーナは腰からナイフを取りだすとエアリーボアの前に立つ。


「お、おい、解体なんてできるのか?」

 思わずこんな質問が口をついて出る。


「先生、こう見えても私はSランク冒険者なの。これくらいできなきゃ冒険者なんてできないんだよ。だからね、ちょっと待ってて」

 完全に解体モードのスイッチが入ったフィーナがナイフをエアリーボアに突き刺し、そこからサクサクと解体を始めていく。


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