第4話 実力の証明
「……え?」
フィーナの答えを聞いて驚いたレオンは、呆気にとられた表情で変な声をだしてしまう。
「だーかーらー、いらないってば。先生、私のことを舐めないでほしいな。さっき人がいないって言っていたし、見た限り畑も荒れていたし、住んでる人も少なかったみたいだよね。つまり、税金……っていうんだよね。それが入らないから……先生は貧乏! そして、Sランク冒険者の私は……お金持ち!」
立ち上がったフィーナは再び大きな胸をドンと叩く。
「あ、あぁ……いや、まあそうなんだが、どストレートに言われるとへこむというか、事実だから仕方ないんだけどな」
「大丈夫! 私が来たからにはなんとでもなるよ!」
格好がつかない自身の状況にレオンが肩を落とすが、励ますようにフィーナは自信満々の笑顔で宣言する。
「そう、だな。フィーナが言うとそんな気がしてくるよ」
一瞬気持ちが落ち込みそうになったレオンだったが、元気なフィーナに気持ちを引っ張られる形で再び笑顔に戻って行く。
「さて、それでフィーナには何ができるんだ? 長いこと会っていなかったから、今のお前がどれだけのことができるのか、それを教えてくれ」
「わかった!」
フィーナは返事をすると勢いよく立ち上がる。そして、扉に向かって行く。
「お、おい、どこに行くつもりなんだ!」
ここで説明を聞くつもりだったため、レオンは慌ててフィーナに質問する。
「んー? このへんって周りを森とか山と肩に二に囲まれているでしょ。でもって、魔物がたくさんいる。だから、実際に力を見せるのが一番だと思うんだよね。だから、森に向かってゴー!」
話しながらも既に部屋を出ており、階段を使わずにひょいと手すりを乗り越えて階下に降りている。
「いやいや、ま、待てって! 口頭で説明をだな!」
階段の上から必死になって止めようと声をかけるレオン。
「まーたーなーいー。先に森にいくねえええぇぇ!」
しかし、レオンの静止を受けてもフィーナの足は止まることなく、ひらひらと手を振るとそのまま森に向かって行った。
「はあ……あいつはほんっと、昔から変わらないな」
ため息交じりであきれたような口調のレオンだったが、その顔は笑顔だった。
成長したフィーナだが、根本は変わっておらず、真っすぐに進んでいる。
そこはレオンが褒めたところであり、彼女はそれを今も貫いてくれている。
それを嬉しく思っていた。
「せーんせーー! 早くはやくー!」
レオンがなかなかこないことに気づいたフィーナは、遠くから大きな声で彼のことを呼ぶ。
「わかった! 今、行く!」
このまま待たせるわけにもいかないと、焦ったレオンは足早に屋敷を出てフィーナを追いかけて森へと向かって行った。
十五分程度で、二人は森に入って少しのところに到着する。
「はあ、はあ、お前は、速すぎ、る。はあ、はあ」
走って追いかけて来たレオンは息をきらしながらフィーナに声をかける。
「もう! 先生ったら、運動不足だよ! でも、ここからは私が力を見せる番だからゆっくり休んでくれていいよ」
そう言うと、フィーナは背中の大剣を引き抜いて、右手で持っている。
見た目からもかなりの重量があるとわかるその大剣を、彼女はまるで片手剣を持つかのように軽々と扱っていた。
「さてっと、魔物さんは……いたいた、って多いね! これじゃあ、森の木の実や薬草を採りに来るのは難しいのかな?」
フィーナの前に現れたのは狼の魔物たち。群れで現れたためかなりの数がいる。休憩しながらレオンが数えるが、ざっとその数三十頭。
(おいおい、数だけじゃなくあいつらデスウルフじゃないか。討伐難易度は上から二つ目のA。しかもエアリーボアの出会いづらさによる格付けとは違って、単純な強さでのランクだぞ)
三十というのは見える範囲の数であり、隠れている魔物たちの気配をもフィーナは感じ取っていた。
見えるものだけが全てではない。見えない何かがいる可能性や、潜伏している敵にも注意せよ。というのはレオンの教えであり、彼女はそれをいつも心に据えている。
「フィーナ、さすがにお前でもこの数は……」
レオンがそう声をかけようとしたが、フィーナはニヤリと笑って動き出した。
「いっくよー!」
最初はゆっくりと歩き、徐々に速度を上げていく。それは際限がないのかと思えるほどに、どんどん上がっていき、あっという間に群れまで数メートルの位置に達する。
「ガ、ガウ!?」
デスウルフの中の一体が、尋常ではないフィーナの動きに驚きの声をだしている。
「ガルルルル!」
それでも、判断が早いものもおり、牙をむき出しにして待ち構えているデスウルフもいた。
「ランクAのデスウルフがこんなに普通に出てくるんて、この森やっばいね」
軽口をたたくフィーナ。その顔には笑顔が浮かんでいる。
これくらいの相手であれば、自分の力を見せるにはちょうど良い。
「それじゃ、くらええええええ!」
フィーナは大剣を両手で持つと、力を込めて思い切り横に振る。大剣の射程範囲に魔物は入っておらず、まだ数メートルは離れている。にもかかわらず、フィーナは剣を振るっていた。
「遠い……いや!」
剣から衝撃波が飛んでいき、狼たちを一撃で真っ二つにしていた。唯一ボスと思わしき大きな個体だけがなんとか跳躍して避けたが、残りは全て亡くなっていた。
(フィーナ……すごすぎる……)
レオンは口を開けて、彼女の戦いぶりを呆然と見ている。
「いえーい!」
フィーナはといえば、どう? すごいでしょ! と、レオンのほうを見てピースサインを作っている。
「ガアアアア!」
よそ見の隙をついて、ボスデスウルフがフィーナに襲いかかる。
(危ない!)
「バカ、よそ見をするな!」
フィーナが食われてしまう。そんな場面を見たくないため、レオンが大きな声で呼びかける。
「大丈夫だよー、ばいばーい」
ここでフィーナはボスデスウルフウルフに向き直って手を振る。そこには先ほどまで握られていた大剣は存在していない。
「……上か!」
このレオンの予測どおり、大剣は通常のデスウルフたちを倒した間に上に放り投げていた。
ボスが、襲いかかってくると予想をして……。
「ガフ……」
そして、残りの一頭にはフィーナがいつの間にか投げていた剣がぶっ刺さりその命を奪った。
戦い開始から終了まで、わずか一分。たった一度の戦いで、フィーナは自分の強さをレオンに説明し終えていた……。
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