お題「時間割」

ぼくは、授業には長く感じるものと、一瞬ですぎるものがある気がする。

体育は、ぼくは好きだ。だから、一時間がいつも一瞬で終わってしまう。

社会も、歴史の授業のときは楽しいから短く感じる。

一方で、算数や、国語はひどい。あまりにも退屈で、とても長く感じられる気がする。早く終われ、といつも思うし、思えば思うほど、時間がゆっくり進むような気もして、むずがゆい。

でも、最近はそういう時間も嫌いじゃない。なぜなら、先月の席替えから、ぼくの斜め前の席にはミコトちゃんがいるからだ。ミコトちゃんはクラスのおとなしい女の子で、他の生徒と話しているところを見たことがない、物静かでミステリアスなひとだ。みんなは気づいてないみたいだけれど、ミコトちゃんは本当にきれいで、かわいいともまた違う、不思議な魅力があった。たぶんこの魅力に気づいているのはぼくだけだと思う。

だから、この退屈な、三時間目の国語の時間の間は、後ろからミコトちゃんを眺めていた。そうしていれば、退屈な時間もいつの間にか過ぎ去っている。過ぎ去って、楽しみな体育の授業がやってくる。

はずだった。

でも、その日の国語の授業は、あまりにも、あまりにも長かった。

それは1時間が5時間とか、6時間とか、半日とかに感じられるような、途方もない長さだった。

おかしい。思わず周りを見渡すけれど、居眠りしていたり、真面目に話を聞いていたり、みんないつも通りだ。

不安になって、再び斜め前に目をやると、

ミコトちゃんと目があった。

なんで後ろを向いてるんだ……?

しばし固まっていると、ミコトちゃんが口を開いた。

「ユウタくん、気づいているみたいね」

ミコトちゃんがしゃべった!しかもぼくに向かって!ぼくのなまえを呼んで!

動揺しているぼくに構わず、ミコトちゃんが続けた。

「どうやら、私達、みたいね。時間割の国語と体育の間、そこが何らかの理由で断絶してしまったみたいだわ」

うわあ!初めてしゃべってるところ見たと思ったらめっちゃくちゃしゃべる!しかも難しい言葉が出てきて何を言っているかよくわからない。いや、言ってることがわからないのは難しい言葉が原因じゃない気もする。

「どういう意味……?」

とりあえず、小声でぼくは聞き返す。ミコトちゃんはこう言った。

「地面が割れることを地割れというでしょう。それが空間の断絶なら、これは時間の断絶、を起こしてるの」

時間割れ。

本来つながっているはずの時間を細切れにして管理し、効率的に教育を施すシステムが生んだバグの一つ……なのだとミコトちゃんは語った。ときどき、割った時間が接続できなくなって、こうして向こうの時間にいけなくなってしまうらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る