お題「プルタブ」

プシュッ。


んぐんぐんぐ


プハーッ。


自販機から取り出したその栄養剤を一息に飲み干し、俺は空き缶をリサイクルボックスに投げ入れた。


きっちりと区画整理された真っ白な街のまっすぐな道路を歩いて進み、今日も労働へと向かう。壁に囲まれた街の中心近くに存在する巨大な六角形の建物がそれだ。先程の栄養剤もこのビル、巨大養蜂施設で採れたはちみつが使われている。


俺はミツバチを見るのが好きだった。きっちりと整理された同じ形の小部屋それぞれにハチやその幼虫がきれいに収まり、我々に毎日糧となる栄養を集めてくれる。その健気さに愛着が湧く。他人とほとんど会話もしない生活で、このミツバチとのやり取りが生活の唯一のコミュニケーションだった。そして、俺はそれで満足していた。


街の誰もが、他人に関心を示すことはない。他人はこの街の生活を回すパーツに過ぎず、街のすべての人間がそのことを理解していた。そして街の壁にはひとつのドアがついていて、そこからいつでも街を出ることができるが、この快適な街にあって、誰もそんなことはしなかった。稀に気が触れて扉を出ていく人間がいるが、そのような人間は遅かれ早かれ街のシステムを乱すので、誰も止めることはしなかった。


ある日のことだった、その日はいつものように栄養剤を流し込み、いつものように労働に出る、つもりだった。しかし、いつもと少し味の違う栄養剤を飲み終えた俺の脳裏に、突如として今まで考えたこともないひとつの疑問が湧いて出た。

「ここは、何だ?」

まるでこの壁に”閉じ込められている"かのような感覚。ここで一生を終えてはいけない、という唐突で抑えがたい衝動。自分が大きな仕組みのコマに成り下がっているという絶望感。生まれて初めて体験する奇妙な感覚だった。


そして私は、壁に取り付けられた扉から、外の世界に出た。奇妙な目で見る住人は、誰も私を止めなかった。



プシュッ。


んぐんぐんぐ


プハーッ。


自販機から取り出した"それ"を一息に飲み干し、男は亡骸をリサイクルボックスに投げ入れた。


吸血鬼がこのシステムを完成させてから2000年が経っていた。






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