お題「ヘルメット」15分

この村では、外に出る際は全員が必ずヘルメットを着用する。「頭喰羽(ずぐば)」に脳を食われるのを防ぐためだ。


頭喰羽は、この村に住み着く妖怪である。拳ほどの大きさで、群れを成し、空を飛ぶことができる。そして、わずかに人語を解するが、それでいて底抜けのバカである。そのバカさ故、人間の脳を食べれば頭が良くなると勘違いしている。しかし、そのバカさ故、ヘルメットさえ被っていれば人間の頭と認識できないようだ。こうして人間と頭喰羽は1000年以上この村で共生している。ヘルメットさえしていれば、頭喰羽は襲っては来ない。


しかし、1960年に入り、出稼ぎに出た村の若い衆づてにこの辺鄙な村にもわずかながら外の情報が入ってくるようになった。それは、文明であり、工業であり、科学の足音である。この時代の都会の人間はもう誰も妖怪など見たことがなく、信じることもない。村に訪れた近代の萌芽は、この奇妙な存在との共生に疑問を抱かせるのに十分な影響力を有していた。そして、頭喰羽の駆逐運動が始まった。


彼らを殺すのはそう難しいことではない。動きこそ素早いが、なにせ頭が悪いので罠を仕掛ければ一網打尽にできる。そうして、頭喰羽は順調にその数を減らしていった。しかし、なにせここずっと害もなさずに共生してきた存在である。保守的な人々からは、頭喰羽を擁護する声も上がった。

「最近の若いものには心がないのか」

しかし、文明に染まった若者はこう返す。

「頭で考えればわかるはずです。頭喰羽は人間に害為すだけの存在。駆逐して困ることはありません」

そして、擁護する者たちは大声でこう返した。

「人間は頭で考えてるんじゃあない。心で考えてるんだ!そんなこともわからなくなってしまったのか」




大きく人口を減らしたこの村では、今では厚いチョッキを着て生活する。打ち捨てられたヘルメットの山が何故存在するのかは、いずれ忘れ去られるだろう。

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