西へ走る陽 2


 歩く道は同じはずだが、物珍しさを目で追うばかりだった昨日と、足取りは全く違った。

並ぶ建物に添えられた花々は、陽が高いうちに得た水をすっかり含みきり、艶々と輝いている。


 庇に掲げられている王国の旗は、まるで手を振り陽を見送るように、海風に揺れていた。

 帰路についていない者もまだいるはずだが、既に通りは賑わいを見せ始めていた。


 ポケット一杯に詰まったパンフレットは、歩く度にカサカサと音を立てている。

その上本を抱えているイリスタは、通りの中でも一際荷物が多いように映る。


 「明日から鞄を常備しておかなきゃ。まさかこんなになるなんて。昨日と違って重くないから大丈夫だけど・・・軽いからこそ、気づかない内に途中で落としていないか心配だな。」

 

 「その心配は最もだな。一つ落としているよ。ほら。」

 思わぬ聞き覚えのある声に、三人は振り向いた。そこに立っていたのは、見上げる程に背の高い、優しい茶色の瞳を持つ男性。

 「あっ。ジグムント様!ええと、こんにちは・・・!」


 「やぁ。こんにちは。君たちはこの先の、うちの寮の新入生たちかな。改めて、ようこそグラブダ王国へ。」

 「あ、えっと、ありがとうございますっ。」


 突然現れた、王国の力を象徴する存在に、三人は言葉を上手く紡ぎ出せないでいた。


 「ははは。驚かせてしまったかな。いやはや、すまない、すまない。そんなに固くならないで大丈夫だ。

何もとって食べたりはしないよ・・・なんてね。特にうちの寮の皆は、私をジギー、と呼んでいるんだ。君たちも是非そう呼んでくれると嬉しいな。」


 三人は顔を見合わせ、やっと気持ちを落ち着かせては、声を揃えて言う。

 「これからお世話になります!よろしくお願いします!…ジギー様!」

「ああ、どうぞよろしくね。」


 三人と並んで歩くジグムントは、大きな袋を背負っていた。

中からはガシャガシャ、と金属が擦り合う音がしている。


「ん?これが気になるかい?全く、ルヴェンのお陰で持って帰ることになっちゃってね。」

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