西へ走る陽 1

 図書館を後にした時、陽が既に西へ傾きかけていた。

その一日の終わりの時間が近づいて、外を歩く者たちは、各々の片付けに慌ただしく動いていた。

 正面遠くには、青から茜色に染まりつつある大海が広がる。遥か彼方に浮かぶ船は、沈む陽に追いつかれないように、急ぎ進んでいる。

 後ろに聳える山脈の向こうには、夜を待ちきれない一番星がチラリと浮かび始めていた。

 

 「今日も一日素敵だったね。」

 イリスタは、目の前に広がる光景を見つめたまま、そう呟く。短い言葉に含まれたその気持ちは、お互いの顔を見ずとも、三人一緒だった。


 噴水広場へ下る階段を降りながら、今日その中で得た興味の、集大成ともいうべき、「選んだ本」と「おまじない」について思い出す。

 そして、明日得るであろう、今日と違う経験は、自分たちのこれからにどう影響していくのか、楽しみになっていた。


 「明日の城下町、本当に楽しみ。市場があるのも勿論だし、本屋や雑貨屋もたくさんあるのよね。昨日の夜言ってた、この国でしか買えない便箋、そんなのもどんな風なのかしら。」

 「持ってきたお小遣いで足りるかな・・・。あまり高いものは買えないのは残念だけど、良いものが買えると良いね。」

 「私の借りてきた本によると、学生は色々割引になるって書いてあるよ。ひょっとしたら、とてもお得に良いものが買えちゃうかも知れないね!」

 「イリスタ、そんなことまでもう確認していたの。何というか・・・うふふ、流石ね。」

 イリスタは、既にページの端から端まで目を通して覚えきってしまったのか、次々とそんな情報が載っている箇所を指差し示す。


 「わぁ、美味しそうな料理!」

 「でしょ!これは新入生は特に割引だって!行くしかないよね!」

 「ああ、見てたら何だかお腹空いちゃった。今日のコニーさんの夜ご飯も楽しみね。」


 三人はすっかり空になったお腹をさすり、寮への道へ足を向けた。

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