示す先 1

 軽く髪を揺らすような風を感じたかと思った瞬間、瞑っているはずのナグの目の裏側には、とある風景が広がった。


 青く澄んだ海、高く昇る陽に白く光る岩壁。

見上げた先に聳える山には、見覚えがある。

物心ついた時から見ていた王城、その先にある秀峰ストラル山だ。

ここは、大昔のグラブダの地だ、と直感した。


ヒトの手があまり入っていない、荒々しくも豊かなその風景に、ナグは感嘆の声を漏らす。

しかしその直後、目の前が真っ黒な砂嵐に包まれたかと思うと、先ほどとは全く異なる場所が目の前に浮かんできた。


 「この戦禍を乗り越えたら・・・それまでの間にヒトの子らはどれ程までに進歩しているのか。」

 「我らには理解し得ぬ感覚だ。目まぐるしい変化には、時について行けなくなる。それによって得るものもあるだろうが・・・失うものも多いのもまた事実。」

 「既に我らの記録の中にしか残っていないものも数多く存在する。ヒトへそれを再び教え伝えたとて、古いものだと言われてしまうのだろうな。」

 「命が短いヒト種と、我らが龍種。今までにないこれほどまでの戦禍の中で、大きな溝が生まれてしまった。これより後は・・・最早以前と同じように、我らと接することはないだろう。」


 「ヘルガ。この地の化身である妖精と接しているお前ならば、彼らを通して、ヒトが我らに対して抱いている感情を読み取れるだろう。ヒト種は、我らとこの地をどうしていくと考えているのだ。」


 暗がりの狭い部屋の中、数人の者たちが円を描くように座っている。彼らの表情はよく見えないが、先の見えない不安を含んだ声色をしていた。


 ヘルガと呼ばれたその者は、鋭く光る目を開ける。その場にいる者全ての視線を一身に受けるその姿は、誰よりも暗く沈んでいた。


 「・・・・・・。複雑な感情だ。正でもあり、負でもある。しかし我らが仕える創世神、ひいては世界にとっては・・・これが最善なのかも知れぬな。」

 

 低く響くその声に、その場の者たちは押し黙り、重い空気が部屋を包んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る