凝視の熱 1

 イリスタは、入り口近くに置かれた特設展示の本棚を見ていた。

『新入生応援!易しいおすすめ本!』

『新生活応援!お役立ち本!』

司書の手作りなのか、色紙や厚紙がいくつも重ねられた小さな看板や、薄い紙を折って立体的に作られた飾りが賑やかに取り付けられた本棚は、それを見ているだけでもイリスタの心を躍らせるものだった。


 「グラブダ王国に初めて来たら、何をする?お勉強もいいけど、美味しいご飯も、綺麗な場所の観光も欠かせない!おすすめガイドマップはこちら!」

 「困った時には、ここに相談しよう!各相談窓口の設置施設案内とその手順はこちら!」

 「怪我や病気の時はここ!予防法も活用して楽しく健康な生活を!」

 「グルメさん必見!隠れた名店の秘蔵レシピも載っているかも!」

 「寮で育ててみよう!楽々お手軽ガーデニング!」

 「大人気テーブルゲーム!友達とやってみよう!」

 「外国の言葉を知りたい!たくさんの旅人がやってくるグラブダ王国ならではの異文化交流はいかが?」


 どれも興味を惹かれるほどに、明るく楽しげな表紙で、かつ手軽に読めるほどに薄く文字も大きめな本が多い。

 アンナが船の上で読んでいた、今にも壊れそうな古本のガイドブックとはまるで違っている本たちを、イリスタは次々と開いて見ていた。


 「ちゃんとした本はあるとは思っていたけれど、こんなにたくさん、その上読み易い本も図書館にはあるなんて。アンナにも早速教えなきゃ!あれもこれも借りていきたいけど、手にもポケットにも、もうパンフレットがいっぱいだし・・・せめて明日の城下町のガイドマップだけでも見て・・・少し内容を覚えて帰ろう!ええと・・・。」


 手に持てない分、頭に入れようとするイリスタの目は、思わず皿のようになる。頭から湯気が出ているのではないかと錯覚するほどに、真剣な表情の彼女の姿に、周囲にいた図書館員がこっそりと噂を立てていた。


 「グルメ情報本を握りしめて、見たこともない程に、物凄く集中している子がいる。」

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