巡る色 2
『創世神話 油彩画集』
『創世神話 水彩画集』
『グラブダ王国 建国伝承画集』
アンナは、いくつか気になる表題のついた大型の本を取り出し、回転式書見台に置く。
どれも一抱えほどある大きさで、見応えがありそうだ。
まず開いた、『創世神話 油彩画集』には、博物館で見た創世神話の壁画とは違い、文言の場面を切り取って描かれていた。
「混沌の海」は、見ているだけでも一瞬で飲み込まれそうな、真っ黒な荒波がうねる様子が、
「天から光の矢が降り注ぐ」場面は、満点の星空から勢いよく石が落ち、誰もいない世界の地面が抉れる様子が、
「それぞれの地にて命満ちたりし刻」の場面は、美しく照らされた丸い世界に、今にも動き出しそうな躍動感を以て、喜びを全身で表す者たちが描かれていた。
どれも力強い筆致で描かれており、アンナの足は、その世界に実際のその場に立っているかのように錯覚するほどに思えた。
カラリ、と小気味の良い音を響かせて書見台を回し、次に開いた『創世神話 水彩画集』には、創世神の姿、心、力にそれぞれ似せた者の住まう地が、遥かまで続くかのような開放感に満ち溢れる、優しく柔らかい色と筆使いで描かれていた。
その地に流れる空気の香りまで感じられるような、繊細な絵画に、アンナは思わずうっとりと見入ってしまう。
続く『グラブダ王国 建国伝承画集』には、この地の険しくも美しい自然、そこに住む多くの龍とヒト、彼らが歩んできた喜びと悲しみ、抱いてきた祈りが描かれていた。
特にアンナの目を惹いたのは、暗く月明かりだけが落ちる中、正面に聳える大きな壁を見上げる一人の妖精の後ろ姿を白く描いた油絵だった。
唯一明るい色を湛えた妖精の、その顔は見えないからなのか、その抱く感情は、一つでは言い表せないような複雑な空気を醸し出していた。
アンナは、先人たちの残した絵の持つ力を前に、すっかり夢中になり、書見台を回す度にかかる重さも忘れて見入っていた。
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