巡る色 1

アンナは絵画の技法書が並ぶ書棚を見上げていた。


 「美術館でも、面白い技法を実際に使った作品がたくさんあったけれど、他にもこんなに色々あるのね。色鉛筆に関するものがあればいいなと思ってこの棚に来たけど・・・。

なになに、色鉛筆を削った粉を擦り付けてぼかして・・・こっちは濡らした布で色の上を叩いて・・・。へえ、面白いわね。これは試してみたいかも。」


 目についた本を開いては、その中に書かれている思い付かなかった技法を眺める。


 「うふふ、イリスタにはつい照れちゃってああ言っちゃったけど、実はナグちゃんの書くお話の挿絵を、私が描くことが出来たら素敵だな、とは思ったのよね。きっと素晴らしい物語だもの、もし叶うなら、その魅力が伝わるような絵にしたいわ。」


 そう言って、こっそりと一人微笑むアンナの耳に、キイ、コロ、キイ、コロと軽やかに何かを回す音が聞こえてきた。

 時折、カシャン、パチン、と高い金属の音がする。その後、再びキイ、コロ、キイ、コロと繰り返していた。


 「不思議な音。何の音かしら。」

 その音がする方へ引かれて進む。


大柱から離れて少し奥まった閲覧席に、木で出来た水車のような装置が並んでいた。

 羽根の部分は平たく、そこに本を載せて回転させている。載せられている本は、どれも大きい上に分厚く、非常に重そうだ。


 使用者は、それらの本が載った羽根を、上へ下へと回転させて次々と閲覧している。

 見終わった本から、装置の固定器具を外し、横付けされた台車へと載せ替えては、次の本を装置に載せ、固定器具を嵌め込む。

そして再び、くるくると回転させながら本を見ていた。


 大掛かりな装置を前に、ポカンとした顔を浮かべていたアンナに、近くを通りかかった図書館員が声をかけた。


 「おや、新入生くんだね。あれを見るのは初めてかい?」

「はい。あれは何ですか?水車みたいで不思議な形をしていますね。」


「回転式書見台、って言うんだよ。重くて分厚い本をたくさん見る必要がある時に使う、便利な装置さ。美術に関する本は大きめの本も多いから、この本棚の本を見る時に、良ければ、是非使ってみてね。」

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