友へ宛てる 2

「この本、こっちの奥でいいの?」

「あまりこっちは読まれないねぇ、古いものは閉架書庫に下げようか。」

「使われたのは…来週博物館の展示の、例の子に貸したものくらいかな。新入生たちのよく見る棚がある程度固まってきたら動かしてもいいかもしれないね。」


大量の本を積んだ台車を転がして、図書館員たちがナグのいる棚の方へ歩いてきた。

驚いたナグは思わず、手にしたその本を抱えたまま、さっと身を隠してしまった。


「わぁ、埃っぽい!」

「とりあえず、これを片付けちゃおう。この中に良い本があれば、特集展示を組んで表に出せるんだけどねぇ。」

「大柱の目録をもう一度洗ってみる?でも古い本だからか、あまり詳しく内容までは記録されていないんだよね。手書きの物も多いし、時間がかかりそうだね。」


棚の空いた場所に本を差し入れて、一つも隙間が無いほどにピシリと背が揃えられた本たちは、再び手に取られる遠い日を願うかのように並んだ。


物陰からその様子を伺っていたナグは、抱えたままの本に一人語りかけた。


「貴方は…いつからここで読まれるのを待っていたの?」


ナグの触った形に埃が払われたその本は、本来の想定の色を取り戻しつつあった。

初めて見た時より輝くその本に、昨夜の、ナグたち三人の寮室に光が灯り、寂寥の青が払われた瞬間を思い出していた。


図書館員たちは、埃被った本たちをぐるりと一瞥しては、空になった台車と共に、大柱の光さす、賑やかな方へ戻っていった。


ナグは物陰から抜け出して、再び埃被ったその本たちの前に歩み出た。


「…待ってて。私、きっと貴方たちにまた光を当てるから。」

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