友へ宛てる 1

 手に取ったその本は、いくつかの薄い小冊子を束ねて製本しているものだった。

どれほど昔に纏められたのか、綴じ糸は乾いて硬くなり、解けかかっている。


 その内容は題名にあるように、「我らが友」である誰かに宛てたものであろう、数十の詩が記されていた。


 印刷ではなく手書きで書かれたそれは、それぞれの書き手の思いを不思議と感じられるほどに浮かび上がっていた。

 気の置けない友同士の、他愛のない平易な、しかしほんの少し洒落た詩に、ナグは時折クスリと笑いながら、先へ読み進めていた。

 

 残りのページが少なくなってきたかと思った矢先、突然何も書かれていない空白のページが現れた。

 数枚続いた後、再び書かれた詩には、先程までの楽しげに踊る文字は無く、代わりに悲しみと、決意に満ちた固く引き締まった文字が並んで書かれていた。



 友よ、我らを見ているか。

 世界に溶けたその遺志を、

 再びここに集めよう。


 友よ、我らは見ているか。

 かつて願ったあの場所で、

 礎築き 守り給う。


 友よ、我らに見ているか。

 光り輝くその風を、

 新たな世界の幕開けを。



 誰かとの詩のやり取りは続く予定だったのに叶わなかったのか、その詩以降は、使われないままの真っ白なページが最後まで続いていた。


「これ…ひょっとして、龍種へ宛てたヒト種の詩…?」

ナグは読み終えたその本を、改めて見返す。


遠く賑わう学生たちの楽しげな声も運ぶ、大柱の淡い光を受けたその本は、ここで埃を被り続けていることを、寂しく思うかのようだった。

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