ありふれるもの 1

 「えへへ、オリビアさんに会えちゃった!嬉しいな!」

「聞いていた通り、優しくて綺麗な人だね。なんだかドキドキしちゃった。」

 「忙しくてなかなか会えないかもしれないって言われていたから、もしそうなら残念に思っていたけど、アンナちゃんとイリスタちゃんも会えて良かった。私も、昨晩会った時よりも、お顔をしっかり見ちゃった。変な子って思われてないかな。」

 王宮と図書館へ続く大階段を登りながら、三人は思わぬ彼女との邂逅の感想を述べる。


 道すがら行き交う学生たちは、図書館から借りたのか、はたまた図書館へ返すのか、分厚い本をいくつも抱えている。

中には、手に持つには重すぎるのか、台車に載せて持ち運んでいる者たちも大勢いる。


「すごい、あんなに大きな本もあるの?どんな内容なんだろうね。」

「あれは、巻物?私たちのよく知ってる形じゃない本もあるのね。」

「あの台車の上、全部木版かな。すごくたくさんあるね。」


本の重さと台車を押す力が異なる、たくさんの車輪の転がる音が、一つの曲のように、調子良く石畳に響いている。


「今回はこの資料を借りていたけど、今度はあの資料を借りようか。」

「この前、司書さんに紹介して貰ったあの本、とても興味深かったなぁ。」

「あまり気にしていなかった分野の本だったけど、ふと読んでみたら、意外とのめり込んじゃった。」

「次の予定までの暇潰しで、ふらりと寄っただけのつもりだったのに、こんなに本を借りちゃった!一旦荷物を置いてこないと!」


三人は、昨日訪れた時には見られなかった、学院での日常生活の中に溶け込む図書館の姿を目の当たりにする。

彼らにとって特別な場所ではない、ありふれた生活の延長に図書館がある、というその構図は、その施設が無い小さな町出身のアンナとイリスタはもちろん、孤児院の手伝いで忙しい生活を送ってきたナグにとっても、羨ましく映った。


同時に、オリビアが言っていたように、自分たちと似た境遇で、その機会に恵まれていない者たちが、世界にはたくさん存在していることを想像する。


そして、自分たちはこの経験をどう将来に生かすべきかを、漠然と心に浮かべるのだった。

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