夕凪までの過ごし方 2

 「実は、作業が煮詰まってしまってね。気分転換に風に当たろうと休憩していたところなんだ。言葉通りの潮風に加えて、「新しい風」と言われる君たち新入生とも交流しようと思って。そうして思わず、待ち伏せしていた様になってしまったけれど。」

 オリビアは、三人の顔をまじまじと見つめている。

高く上った陽の下の、彼女の端正な顔つきは、昨晩の薄暗い廊下で見た時とは比較にならないほどに、しっかりとナグの目の前に現れている。


 これからの学院生活に抱く期待と展望、そしてほんの少し残る不安すらも、見透かされているようで、気恥ずかしくなったナグは、俯き加減になるのだった。


 その様子に、オリビアは確信を得たように頷いては、優しく微笑む。

 「うん。今の君たちは、私がこの国に来たばかりの頃に似ている。懐かしいな。今君たちが抱くその気持ちは、大切にしておくんだよ。私もお陰で、久しぶりに思い出したよ。ありがとう。」


 予想をしていなかった、オリビアから告げられた突然の感謝の言葉に、アンナもイリスタも、驚いて目を丸くする。

 「ええと、ええと。お役に立てたのならば良かった、です!」

 「私たちが似ている、ですか。うふふ、何だか嬉しい。私たちもオリビア先輩のようになりたい、です!」

 跳ねる心のままに返した返事は、少し声が裏返っていたが、オリビアの纏う穏やかな空気に当てられ、二人は次第に落ち着きを取り戻した。


 「博物館を見学したそうだね。作業というのは、来週の展示に関することなんだ。」

 「『アーカーシャの魔法について』ですよね。もちろん見に行きます!・・・でも、そもそも一体どんな内容なのか、私たちには見当もつかなくて。」


 イリスタがポケットからパンフレットを取り出す。しっかりと握り込んでいたのか、皺が寄ったその紙を見て、オリビアは嬉しそうに答えた。


 「興味を持ってくれて嬉しいよ。これはますます、退屈な展示には出来ないな。・・・どこから説明したものかな。図書館の大柱には、この国の全ての叡智が記録されている、というのは聞いたかな。」

「はい。その叡智の目録を『アカシック・レコード』と呼ぶ・・・でしたっけ。」

「その通り。それらに、遠くの場所からでも参照できるようにする魔法を「『アカシック・レコード』に触れる」の意味で「アーカーシャ」と言うんだ。」

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