天辺の時間 3
「さて、本日の予定はこれまでで、これより解散となりますが、その前に一つだけ。とある方をご紹介致します。
グラブダ王立学院長、妖精族はロザリーナ様です。」
ゼライツに呼ばれ、目の前に姿を現したその妖精を見て、新入生たちは目を丸くした。
先程までの演劇に登場していた、遠い昔話の住人と、同じ種族と名を持つ存在に、俄かに広場は騒がしくなった。
「ご紹介に預かりました、学院長のロザリーナと申します。以後、お見知り置きを。」
ドレスを軽く摘んで、会釈をする彼女は、踊り子のような優雅さを纏っていた。
「ロザリーナ様って・・・さっきの演劇の?」
「あれは再生戦争の時代の話でしょう?まさか、妖精族ってそこまで長生きなの?」
「ヘルガ様の意志を継いだこの国の、学院長がその恋人なんて。なんだか素敵ね。」
「劇のロザリーナ様の妖精の羽根も綺麗だったけど、本物はもっと綺麗なんだね。」
口々に、彼女に抱いた印象を語り合ううちに、ゼライツの言う通り、見つめる瞳には、次第に親しみが込み上げてきていた。
「どれほどに、立派な演劇に仕上がっていたかが窺い知れるわね。年月を経るごとに、質が上がっていくんだもの。全く、ヒト種とは恐ろしいものね。
・・・そんな子たちだからこそ、ヘルガは貴方たちを愛しく思い、守ろうと誓ったのでしょうね。」
ロザリーナは、遠い過去を見やるように目を細める。
「私の物語に、心を動かしてくれたことに感謝します。恥ずかしく思うところもあるけれど、それ以上に、私と・・・この地にとって、とても良いことに繋がりますから。」
ゼライツが話を続ける。
「妖精族は魔力の化身、というのはその通りです。再生戦争によって傷ついたこの地の妖精たちは、最も強い力を持つロザリーナ様を除いて、その姿を保つことが出来なくなりました。
ロザリーナ様もかつて消滅の危機にありましたが、戦後この国の者たちが復興に尽力したことで、それは免れました。しかし、そのお力は今も完全ではありません。」
「この地に再び魔力が満ちれば、私たち妖精族も戻ってくる。それは、ヘルガが、そしてその意志を継いだ者たちが願った、恵みに満ちた世界になるということ。そのための学院、そのための国。私は、そのために学院長として、皆を見守っているの。」
「どうか、恵みある地になりますように。皆の力が頼りです。」
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