天辺の時間 2
学内施設の見学を終えた新入生たちが続々と広場に戻り集まって来た。
見学に出発する前は、模擬試合を始めとした、圧倒的な実力の格差を見たことによる、戸惑いと緊張を色濃く含んだ目をしていたが、案内人の説明と、学生たちの実際を肌で感じたことで、幾分それらは和らいだ様子だった。
その姿を、ゼライツは満足そうに見渡していた。班を率いていた案内人たちの報告を受け、手元の書類に書き込んでいる彼に、声をかける者が現れた。
「今回も功を奏した、というような顔ね。しっかりとやっているようで。」
そこに立っていたのは、薄暮の陽の色の髪を肩にかけている女性だった。柔らかく薄い布を幾重にも重ねたドレスを纏う彼女の周囲には、パチパチと小さな光の粒子が浮かんでいる。
その粒子が集まった背中には、蝶のような羽根が形作られていた。
「これはこれは、学院長様。お体は宜しいのですか。」
「ええ。今日は調子が良くて。それに、新しい風たちに挨拶もしておきたかったから。」
「それは大変喜ばしいことです。是非お願いします。きっと皆、貴女に親しみを抱くでしょうから。」
「そうね・・・。例の件、本当に予定に組み込んだ時は、どうしてやろうかと思ったわよ。その通りだけど・・・全く、恥ずかしいわ。」
「私は、とても素敵なことだと思います。その感情を持って、歴史に埋もれさせるのはあまりにも惜しい。それに、その意図を汲んだ皆は、よくやってくれました。」
「まあ、そのお陰で調子が戻ったのも・・・否定はしないわ。本当に食えないわね、貴方は。」
「ふふ、褒め言葉として、有り難く受け取っておきます。」
柔かな表情を崩さないゼライツに、学院長と呼ばれた女性は、面白くない、と言ったような顔をした。
全員が広場に戻ってきたのを確認したゼライツは、一団に向き直り、澄んだ声を響かせた。
「皆様、お帰りなさい。学内施設の見学は如何でしたか。これからの学院生活への想像が広がったのならば、企画した甲斐があったというものです。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます