天辺の時間 2

 学内施設の見学を終えた新入生たちが続々と広場に戻り集まって来た。

見学に出発する前は、模擬試合を始めとした、圧倒的な実力の格差を見たことによる、戸惑いと緊張を色濃く含んだ目をしていたが、案内人の説明と、学生たちの実際を肌で感じたことで、幾分それらは和らいだ様子だった。


その姿を、ゼライツは満足そうに見渡していた。班を率いていた案内人たちの報告を受け、手元の書類に書き込んでいる彼に、声をかける者が現れた。


 「今回も功を奏した、というような顔ね。しっかりとやっているようで。」


 そこに立っていたのは、薄暮の陽の色の髪を肩にかけている女性だった。柔らかく薄い布を幾重にも重ねたドレスを纏う彼女の周囲には、パチパチと小さな光の粒子が浮かんでいる。

 その粒子が集まった背中には、蝶のような羽根が形作られていた。


 「これはこれは、学院長様。お体は宜しいのですか。」

 「ええ。今日は調子が良くて。それに、新しい風たちに挨拶もしておきたかったから。」

 「それは大変喜ばしいことです。是非お願いします。きっと皆、貴女に親しみを抱くでしょうから。」

 「そうね・・・。例の件、本当に予定に組み込んだ時は、どうしてやろうかと思ったわよ。その通りだけど・・・全く、恥ずかしいわ。」

 「私は、とても素敵なことだと思います。その感情を持って、歴史に埋もれさせるのはあまりにも惜しい。それに、その意図を汲んだ皆は、よくやってくれました。」

 「まあ、そのお陰で調子が戻ったのも・・・否定はしないわ。本当に食えないわね、貴方は。」

 「ふふ、褒め言葉として、有り難く受け取っておきます。」


 柔かな表情を崩さないゼライツに、学院長と呼ばれた女性は、面白くない、と言ったような顔をした。


 全員が広場に戻ってきたのを確認したゼライツは、一団に向き直り、澄んだ声を響かせた。


 「皆様、お帰りなさい。学内施設の見学は如何でしたか。これからの学院生活への想像が広がったのならば、企画した甲斐があったというものです。」

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