終幕に光る 1

 目の前に広がる物語の世界は、重厚な幕によって、静かに閉じられていく。

 その余韻を残す緞帳前に、再び燕尾服の語り手が現れる。

 

 「これは遠い昔、この国でかつて起こったのかもしれない、悲しくも美しい、今に繋がる物語です。彼らの思いは、きっとどこかで続いていることでしょう。」


そして暗闇に溶ける劇場内。

啜り泣く観客たちの声がところどころで響いている。その中から、まばらに拍手が聞こえ始めたかと思うと、それはすぐに大きな音になり、場内を包み込んだ。


しばらくして、舞台上に再び優しい光が照らされた。

そこには、出演した役者たちがずらりと並び、眩しく顔を煌めかせていた。そして、一糸乱れぬ動きで揃って礼をしては、よく通る声を挙げた。


「グラブダ王国に栄光あれ!」

「グラブダ王国に栄光あれ!」


「新入生歓迎公演『龍に恋した妖精』は、これにて終幕です。ご覧いただきまして、ありがとうございました。

ここで、一同を代表しまして、この不肖、演劇部長ベルが出演者たちを紹介させていただきます。」


 ベルに名前を紹介される度に、演者たちは客席の近くまで進み出る。

役をやり遂げたその笑顔には、この舞台に立つまでの弛まぬ努力の跡を示すかのような、大量の輝く汗が滲んでいた。


舞台に色を添える華やかな衣装は、客席からは到底見えないであろう非常に細かい部分まで作り込まれている。

光の当たり具合による見え方すらも計算されているようで、演者の動きのままに、その表情を変えている。


 「・・・そして、最後に!龍種ズメイ族・ヘルガ役を務めましたのは、我らが演劇部長、ベル・ドナ・フォン・フリーレン!」


 演者全員が声を揃え、主役を務めた彼女の名を呼ぶ。同時に、客席からもより大きな拍手が送られる。

 その全てを抱きしめるように、ベルは大きく両手を広げ、空を仰いでから、誰よりも深く礼をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る