公演「龍に恋した妖精」 3
ヒト種たちは、ヘルガの亡骸の下に集い、悲しく教義に縛られた存在を悼んだ。
同時に、昔からの教義に反して、襲いくる敵に積極的に対抗する術を開発し、結果として、生き残った自分たちの存在について、自責の念に似た思いを抱いていた。
「妖精よ、教えてくれ。私たちヒト種の選択は正しかったのか。しかしさもなくば、我々ヒト種は間違いなく滅びていた。それとも、これも創世神の意なのか。我々はどうすれば良かったのか。」
ロザリーナにも、その答えを示すことは出来なかった。
魔力の化身である妖精も、この戦争により消えてしまい、ただ唯一残った彼女も、今にも消えそうな力しか残されていなかった。
「愛するヘルガ。貴方の声を聞きたい。何が正しく、何が間違っていたのかの答えは、私たちとヒト種だけでは、どれだけ時間がかかっても導き出せそうにない。」
ロザリーナは静かにヘルガの亡骸に触れた。硬い鱗の中に、まだ少し残るヘルガの暖かさに、目を閉じて寄り添った。
その瞬間ロザリーナの瞼に、ヘルガがかつて見ていた、この国の景色が浮かんだ。
はるか昔、この地を生きる場所と定めた日。
龍種とヒト種の意見が初めて対立した日。
お互いの叡智により、それらを乗り越えた日。
多くのヒト種が、ヘルガに親しみを持ち、またヘルガも彼らを愛おしく思った日。
妖精が生まれ、「ロザリーナ」と出会った日。
今までとは違う、輝いていた日々。この地に生きる者全てを愛しているヘルガが、特別大事にしたいと思った、初めての存在。
遥かな時を教義に従い生きていたヘルガが、戦争の惨禍の中で、自分の無力さに嘆き悲しんだこと。ただ耐えるだけでなく、敵わぬ相手にも必死に食らいつき、そして打ち破る力を持つことで、この地が守られるのならば、ヒト種こそ、これからを担うに相応しいと感じたこと。
ヘルガのその思いは、ロザリーナを貫き、そしてヒト種たちへと届いていた。
それらの記録は、今は、とある礎として残されている。
そう、「叡智の結晶」として。
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