公演『龍に恋した妖精』 1

闇を切り裂くように、スポットライトが、鋭く緞帳前を指す。照らされた先には、国章のついた燕尾服を纏った一人が立っていた。


「皆様、長らくお待たせいたしました。本日はご来場頂きまして、誠にありがとうございます。そして、ようこそ、グラブダ王国へ。

今回、皆様にご覧に入れますのは、遠い昔の、この国に住むもの達のお話です。

その名は、『龍に恋した妖精』。紡がれる物語の結末まで、どうか片時も目を離さずに。」

 そう言い終わると、スポットライトは静かに消え、静かに幕が開いていく。


 幕の向こうには、手付かずの山々が広がる、再生戦争時代のグラブダの地が広がっていた。

 その地を背景にした古めかしい衣装のヒト種が、素朴ながらも幸せそうな顔で生活をしている様子だ。

 舞台の中心に置かれた岩室に、彼らは時折、祈りを捧げている。


 「龍種ズメイ族は、ヘルガ様。どうか、今日も一日、我らをお導きください。」

 響き渡るその声に呼応して、岩室がキラリと光ったと同時に、力強く地を踏み締めて、龍種ズメイ族・ヘルガが現れた。


 そこには演じているはずのベルは無く、まるで本物の龍であるかのように感じられた。

「この地に生きる者たちよ。その命の輝きを、今日も我らは、きっと記録しよう。創世神の加護あれ!」


国王を前にした謁見の間で感じたような、圧倒的で、侵すことの出来ない存在を前にして、動くことすら憚られるような空気。しかし、昨日のそれとは少し異なるのは、国王がヒト種で、今目の前にいるのが龍種であるということだ。


博物館で見た、ヒト種と龍種の、超えることのできない種族差が、悲劇を生んだということを思い出し、ナグたちは劇の行く末が気になって、すっかり見入ってしまうのだった。

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