王立劇場 3
ロビー中央の、一際大きく重厚な扉を開いた先の正面には、優しい光に照らされた舞台が横たわる。
そこを中心に、緩い曲線を描きながら、すり鉢状に客席が並ぶ。
ロビーとは違い、外の陽が一切入らない薄暗い劇場内は、これから始まる劇中の世界に観客を蠱惑的に誘っていた。
「この公演は、君たち新入生のためのものだから、当然一番良い席を確保しているよ。普段は滅多にこんな席は取れないんだ・・・私もプライベートでは取れた試しがないよ。競争率がとても高くてね。」
案内人に連れられ、ナグたちは舞台を真正面に見ることが出来る席に座った。
両目の視界いっぱいに広がる舞台の、その上下左右の何もない空間すら、全て音を観客に届けるように工夫の凝らされた構造をしていた。
ナグは細長く三つ折りにされた紙を、淡い光に当てては読んでいた。
それを見たイリスタとアンナは、劇場の空気に合わせて、ひそひそ声で話しかける。
「ナグちゃん、それ、劇場のパンフレット?いいな、後から見せて。」
「えっ、今度はナグちゃんが持って来ちゃってるの。うふふ、いつの間に・・・なんて、実は私もさっき、美術館のパンフレットをいくつか持って来ちゃった。」
そう言ってアンナは、ポケットに入るよう、小さく折り畳まれたパンフレットを手元に覗かせた。
「何よう、二人とも私のこと言えないじゃない。」
「だって、パンフレット持ったイリスタを見てたら、楽しそうなんだもの。」
「寮に帰ったら、今日貰ったパンフレットを皆で見返そう。イリスタちゃんの貰った、博物館のパンフレットも、アンナちゃんの美術館のパンフレットも面白そうだもんね。」
「いいね!そうと決まったら、アンナもナグちゃんのポケットも、いっぱいにしちゃおう。」
「そうね!ああ、こんなになるなら、小さい鞄を見繕って持って来れば良かったわ。」
客席に座り、サワサワと静かに期待の会話を交わしながら、演劇の始まりを待つ。
しばらくして、カランカラン、と小気味良い鐘の音が鳴ったかと思うと、ふと舞台を照らしていた淡い光が消え、場内は完全な闇に包まれた。
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