王立劇場 1

 美術館を後にしたアンナたちの一団は、次に向かう予定の場所の入り口が、やけに黄色い声で満ちているのに、不思議そうな顔を浮かべた。


 その場所は、王立劇場という銘が金色に輝いている。

入口前には、華やかな衣装を纏った者たちが並んで手を振り、アンナたちよりも先に案内されていた新入生たちの一団が、興奮冷めやらぬ様子で、口々に称賛の声を送っていた。


「先輩!とても感動しました!」

「私も!私も演劇部に入りたいです!」

「ああ!なんてカッコいいんだ!主役の先輩…憧れる!」


 「ありがとう、ありがとう。僕らのささやかな今日の公演が、君たちの心の栄養となったのならば、こんなに光栄なことはないよ!さぁ、この国を思う存分満喫しておくれ!」

一際彼らの声を受けるのは、快活そうな短髪の、長身の女学生だ。


 彼女たちへ向けられる声に負けないように、案内人は少し声を張っては説明を続けた。

 「今日の最後に案内する施設は、王立劇場だ。ここは見ての通り演劇や、他にも演奏会などで使われる施設だよ。劇場としての設備は、他の国と比べても整っているから、学生たちはもちろん、一流の役者や音楽家たちが発表会に使用したりすることも多いんだ。

より本物の芸能に触れて欲しいから、学院生なら券代は通常よりもかなり安くなっているんだよ。」

 

 アンナたちの一団の到着を見つけた長身の女学生は、別れを惜しみ、そこを離れようとしない先の一団に深く礼をしては、よく通る声で感謝の意を述べた。


 「僕らが素晴らしい演劇が出来るのも、この国で学んでいるお陰さ!いいかい、僕らのようになりたいと願うならば、僕らを形作る国の姿を是非見てきて欲しい!

そうして、その後に僕らと共に来たいと思ったならば、いつでも大歓迎さ!」


 その言葉に、すっかり惚れ込んでいる彼らは、こくこくと頷いては、次のアンナたちの一団にその場を譲るのだった。


 「やぁ。よく来てくれたね!僕ら演劇部の公演が君たちの今日の最後を飾れるなんて、嬉しいよ!僕は演劇部長のベル!ようこそ、王立劇場へ!」


 ベルのその声を合図に、並ぶ他の役者たちも、優雅な衣装をわざと大きく翻らせて、ピタリと息のあった礼をして見せた。

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