王立美術館 2
「あら、皆さんご機嫌よう。まさかこちらでもお会いするなんて。」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、王立図書館の筆頭司書プラムと、数人の図書館員たちが立っていた。
その手には本ではなく、いくつかの紙束を抱えていた。
「こんにちは、プラムさん。例の件の打ち合わせですか。」
「ええ、そうなの。時間的に、入れ違いになると思っていたけれど、思わず長引いてしまって。でもお陰で良い話でまとまりそうよ。」
「それは何よりです。学生たちもより気合が入るでしょうね。」
案内人とプラムの会話に、新入生たちはポカンとした表情を浮かべる。
「ああ、これは失礼。先ほど、この美術館では時々、発表会が行われるという話をしただろう?」
「実はね、王立図書館が中心になって、王国の歴史を伝える絵本を作ろうという話があるのよ。その挿絵に使う作品を発表会の中で選んではどうか、ということを打ち合わせしていたの。」
アンナは、船旅の中で読んでいた、古本を思い出していた。
文体は整っていたが、難しい表現も多く、以前の所有者も意味を調べた故であろう、筆跡がひどく付き、今にも壊れそうな本だった。
「絵本、ですか。」
「ええ。この国についてを記した本はいくつもあるけれど、どれも少し難しく書かれているの。大人でも読むのに苦労するくらいですもの。ましてや子供たちなんて、見ないでしょう。そんな中に、将来学問の道に進みたい子がいたとしたら・・・。この国のことを知らないままなのは、大変な機会の損失よ。」
「創世神話は、絵本によっても広く知られているだろう?魅力的な挿絵と易しい文章は、それほどに効果が期待できるということさ。」
「それと同時に、国の子供たちに、そのお話を読み聞かせる機会も設けようと考えているのよ。最初は、地域の公民館や孤児院で開催して・・・この件に関しては、詳しくは検討中だけれどね。」
思いがけず孤児院という言葉を聞いて、ナグの心はドキリと跳ねた。
そんな機会が自分がいた頃にあったなら、どんなに素敵だっただろうと思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます