王立美術館 1

 アンナたちが、案内人に連れられ次に訪れた場所は、美術館だった。


博物館のような建物の巨大さはない代わりに、壁面には国章の意匠を用いた、細かな彫刻がされている。

建物周りの至る所には、不思議な形のオブジェがいくつも置かれ、そのどれも緻密で精巧に作られていた。


「こちらは、グラブダ王立美術館。美術工芸品を展示しているんだ。絵画や彫刻、陶磁器やオブジェなどが主になるかな。博物館で見ただろう、創世神話の壁画の現物はここに収蔵されているんだ。あれは考古学的価値もあるけど、同時に使われている技法は、芸術的価値があるものだからね。」

 

 素朴ながらも作り込まれた入口扉をくぐると、ほんのりと油や顔料の匂いが漂ってくる。

たくさんの色が染み込んだエプロンを纏って、作品に向き合う学生たちは、見たまま感じたままを表現する方法を模索している様子だ。


 「それに加えて、芸術作品を発表する場所でもあるんだ。ここで発表されて評価されたものが、市街地にも飾られたりもしているよ。見た子はいるかな、港のアーカーシャ像もその一つさ。学院メダルの裏面の絵を、実に忠実に立体で再現したもので・・・。」

 

 アンナとイリスタは、思わず顔を見合わせた。

 「あれ、そうだったのね。元の絵はこんなに複雑なのに、凄かったね。」

二人は、首から下がるメダルをじっくり見つめていた。


 「絵を描いたり、物を作ったり・・・立体を平面にしたり、平面を立体にしたりするのって、すごい技術だよね。私は不器用だから羨ましいなぁ。」


 イリスタは、指で枠の形を作っては、顔を傾けながら、腕を曲げては伸ばしてを繰り返している。


 「アンナは絵を描くの得意だし、作品出してみたらどうかな。」

 「あ、あれは趣味の範囲よ。発表するほどじゃ・・・。」


 「ナグちゃん、アンナは風景をとても綺麗に描くんだよ。今までに何冊もスケッチブックを描き終えてるし、この留学中にも描くでしょ?」

 「それは・・・描くつもりではあるけど・・・。ナグちゃん、期待で物凄くキラキラした目で見ないで・・・。本当に大した物じゃないんだってば・・・。」


 アンナは、顔を真っ赤にしては、消え入るような声で言うのだった。

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