気分転換の風
人懐こく近づいてくる足音に、オリビアは瞑っていた目を開け、その主の方を見やる。
「ジギーさん。お久しぶりです。」
お互いに寮を空けることが多いため、長らく聞くことの出来なかったオリビアの声に、ジグムントは笑顔を向けながらも、心配を含んだ返事を返す。
「やぁ、オリビアくん。お疲れのようだね。今平気かい?」
「はい。先ほどから少し休憩に出てきたところだったので。ジギーさんは、模擬試合の後片付けですか。」
「そうなんだ。今回は前回より片付けが楽で助かった。ん、先ほど、ということは今回の試合は見ていないのか。」
「残念ながら、今回は見られませんでした。今日だってことを忘れていた訳でないのですが、来週の準備をしていて、気がついたら今の時間でした。」
ジグムントは、そのオリビアの言葉に、合点が言ったような顔をして、
「ははぁ、さては気分転換してこいと、担当教諭に言われただろう。君は時間も忘れて、集中しすぎるところがあるからね。」
「流石はジギーさん。お見通しですか。その通りです。」
「留学生が単独展示、なんて滅多にないことだからね。私も含めて、皆期待しているのは確かだけれど、私はそれ以上に、君が倒れてしまわないか心配だよ。寮に帰れていないんだろう?」
「ご心配、ありがとうございます。でもお陰様で、作業自体も残るはあと少しですし、それが終われば、明日は一日寮の部屋でゆっくり出来そうです。」
「そうか。それならば良かった。私も明日は非番だから、うちでゆっくりしようと思っていたところだ。コニーの入れるお茶を飲みながら、明日はお互い羽根を伸ばすとしよう。」
ジグムントはそう言って、自分の頬を両手で叩いて、気合を入れ直した。
「さて、そうと決まれば、私は作業を早く終わらせるとしよう。もう少しすれば、新入生たちも広場に戻ってくるだろう。新しい風は気分転換にうってつけだ。オリビアくんも、良ければ彼らに会っていっておくれ。」
オリビアは、その提案に微笑んで頷き、作業に戻るジグムントを見送った。
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