照らされた疲労 2

博物館裏手の職員用通用口から外に出たオリビアは、ううんと大きく伸びをする。

深呼吸をすると、遠く表通りに植えられた草花の、爽やかな香りがほんのりと鼻をくすぐった。


 正面入り口とは違って、通用口には華やかさは無く、無骨な石造りが剥き出しになっている。

進級したり、博物館職員になったりして、内部の業務に関わるようになって初めて、この殺風景な入り口を目にするのだ。


 華やかな博物館しか知らない者たちが「がっかりした。」と、口を揃えて述べるそれは、当然オリビアも抱いた感想と同じものだった。


 「留学生の私には、そんな負の印象づける場所なんて、絶対に見せて貰えないものだと思ってたが、努力はしてみるものだな。それに加えても、全く懐が深い国だ。」


オリビアは、ところどころ傷んだ壁を軽く撫でながら、通りの方へ歩みを進める。


 「この縁の下があるからこそ、揺るぎない華やかさがある…というところか。あるいは…」


 そう言いかけて、表通りに出るや眼前に広がる大海と、眼下の街並みの賑わいに、言葉を続けるのをふと止めた。


 「…うん。野暮なことだ。私がどうすべきことではない、な。」


道の向こうには、新入生たちの一団だろう人の集まりが、楽しげな声を響かせながら歩いていた。


 「この先は…そうか、美術館と劇場があったか。まだ案内されているようだし、しばらく新入生たちと自由に話せる時間は無さそうだ。中央の噴水広場で休みがてら待つとしよう。」


 広場へと足を向けるオリビアの頬を、大海の風が撫でる。

吹き抜けるその風は、群青色のマントまで大きく翻らせる。

銀色の髪は陽の光に、白く煌めきを返しながら、優しく揺れた。


 再び大きく深呼吸をして、風の音を聞き終わってから、オリビア心地よい足音を石畳に響かせて、広場へ続く道を歩き出すのだった。

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