再生戦争と国 1

 自然史、生物学、歴史民俗学と続いてきた常設展示室の最後を飾るのは、「再生戦争」についての展示だった。


 「戦争の発端は、魔力が突然消失する現象が、世界各地で頻発したことによる。」

「それまで魔力というものは、空気と同様、普遍的に常に身の周りに存在するものであり、場所による過多はあれど、完全に消えるということは無いものだと認識されていた。」


 「しかし、実際に起こったその完全消失により、ある地は跡形も無く消滅し、その周辺環境が劇的に変化し、またある者はその姿と精神を保つことが出来なくなった。」

 「その災厄から逃れ、少しでも安全な地を求める者同士、次第に各地で争いが始まった。」


 「再生戦争」の概要と共に、当時に於ける、この地について説明が続く。


 「この地は、戦争以前より大風や大波といった災害に対しての備えもあり、安全な地と見做され、多くの者達から狙われた。」

 「侵略者たちにとって有利な魔法が、狙われる度にこの地にかけられたことで、備えだけで対処出来ず、結果、多くの人々が犠牲になった。」


 説明板の横には、時の指導者たちが記したのだろう、その日に失われた命たちの名簿の一部が展示されていた。

その隣に並んで、彼らの遺品が展示ケースの淡い光を受けて座っている。


 迫り来る侵略者に対して、最前線で戦った兵士の装備品は、原型を辛うじて留めているといった物が大半で、その装備者の行く末は、言葉にせずとも感じ取れるのだった。


 また、勇敢な彼らの背後にいた、彼らの愛した者たちも、災厄の終わりをひたすらに願い、命を守る為に行動していたことが分かる資料が、所狭しと並んでいた。

 

 「その最中で、龍種ズメイ族とヒト種の間で、この災厄への焦燥の認識に差異が生じ始めたのだった。」

 「それは種族の、どうしても埋めることの出来ない差であった。」

 「その差を理解した上で、新たにこの災厄への対処を行なった結果、統治は次第にヒト種が主導していくようになり、災厄の終わりと同時に、グラブダ王国が建国されたのである。」

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