王立博物館 2

 入って最初に目に飛び込んできたのは、巨大な龍の模型だった。全くの予想外の展示物を前に、新入生たちは思わず跳ね上がり、驚きの声を上げた。


 「何これ!?ビックリしたぁ。」

 アンナとナグに先立って、意気揚々と博物館に足を踏み入れたイリスタだったが、圧倒的な模型を目にしては、気がつくと、二人よりも数歩後ろに下がっていた。


 「本当にビックリした。なんて大きいの。それに、とても精巧な模型ね。本物の龍かと思っちゃった。うふふ、イリスタの驚き方にもビックリしたけど。」

 アンナはイリスタの手を軽く取っては、横に並ぶ。


 「これ・・・ひょっとして、ズメイ族・・・?」

 ナグは、龍の模型の目を見つめたまま、つぶやいた。

重厚そうな鱗の中にあって煌くその瞳は、長い年月を経た深い色で彼女たちを見下ろしていた。


 「驚くのも無理はないだろうね。龍種は大昔に比べて、めっきり数を減らしたし、実際に見たことがある人も今では少ないだろう。ご推察の通り、これは龍種ズメイ族の模型だよ。」


 模型の下には、説明板が四つ並んでいた。どれも金の縁取りが施され、一際目立つようにピカピカに磨かれていた。

 

 「龍種・ズメイ族。その体躯は、ヒトが空を仰ぐより大きく、その鱗は海の色をそのまま映したような紺碧色。世界を見つめる瞳は、沈む夕陽に似た緋色。」


 「創世神話に謳われる神に仕え、世界を記録する事を使命としていた。それらの記録は口伝よりも正確であり、ヒト種にとっても有用であった。」


 「再生戦争を機に、その意思と使命を引き継いだグラブダ王国の民によって、記録はアカシックレコードとして納められた。」


「その記録を広める魔法、『全てを記録するもの』アーカーシャの完成を願い、全ての始まりであるズメイ族の姿をここに残す。」



 「へえ。世界を記録・・・なんて難しいこと書いているけど、とにかく、物凄く頭が良くて、皆にとって大切な龍だったんだね。」

 「再生戦争で、ズメイ族はいなくなっちゃったのかな。なんだか、悲しいね。」


 アンナとイリスタは、説明板を読んではそれぞれズメイ族に思いを馳せた。

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