ルーグ邸寮 4

食卓に並んだカップがすっかり空になった頃、ささやかな新入生の歓迎会は、お開きとなり、上級生たちは、明日の準備のために、各々の部屋に戻り始めた。

「また明日ね。お休みなさい。」

ニコニコと明るい声で遠ざかってゆく彼らを、三人は見送った。


「賑やかで、いい子達でしょう。自慢の寮生たちですもの。沢山先輩たちを頼ってね。さぁ、お部屋に行きましょうか。」

後片付けを済ませたコニーの手には、金色の鍵が三つ握られていた。

ブレードには複雑な凹凸が刻み込まれ、頭の部分には精巧な透かし彫りが、そして、鍵の天辺には、それぞれの名前が刺繍された布製の小さなタグと紐がついている。

 「これがお部屋の鍵よ。そして、その頭の透かし彫りの部分が寮の玄関の鍵なの。扉に形を合わせて嵌め込むところがあるから、後で確認しておいてね。この文様は、この家の家紋なのよ。」


 「そういえば、この寮の名前って、「ルーグ邸」って言うんですよね。ルーグさんの自宅を寮としてお借りしている、ということなんでしょうか?」

 アンナは、ふと質問した。

 「あら、そうそう!よく気づいたわねぇ。ここの主人は、ジグムント・ルーグというお方でね。国王様付きの四人の武官の一人なのよ。四人の中でも一番背が高くて、一番体格が大きい男性で・・・多分、今日貴方達も、式典でご覧になったんじゃないかしら。」

そう言われ、思わず顔を見合わせたが、三人とも、その表情は、「あの空間にいるのが精一杯だったから、はっきりと思い出せない。」という顔をしていた。

 

 「うふふ、あまりピンと来ていないようね。無理もないわ。緊張していたでしょうし。近いうちに、また改めてお会いできるわ。」

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