健闘の姿 1

直前までレーゲが試合を握ったと思われていた状況から、一転してエルマが勝利を掴んだ事に、観衆は呆気にとられていた。

試合終了を告げるゼライツの声に一呼吸遅れて、歓声が上がった。


「エルマ様!エルマ様!」「疾風流転のエルマ様!」

「レーゲ様!レーゲ様!」「静謐自若のレーゲ様!」


 お互いに剣を納めると、エルマは疲労のあまり、その場に座り込んでしまった。

レーゲは少し申し訳なさそうに微笑むと、彼女の手を取り、助け起こした。勇姿を称える声に、二人は手を上げて応える。


 「そうか、エルマ様が使ったのは気象学・・・。今日みたいに陽が出て暖かい日は、地面の水は蒸発しやすい。水蒸気は上昇気流に乗って空高く上がると雲になって、重くなる。上昇気流で支えられなくなった雲の中では下降気流が起こり始めるんだ。」


 「下降気流が激しく地上に吹き降りる現象が『ダウンバースト』っていうんだっけ。木や作物が折れたりして被害が出て危ないって、講義で聴いたよ。」


 「じゃあ、レーゲ様が最後に水の大蛇を出した時に、急に空が曇ったのは、エルマ様の風魔法で出来た雲のせいだったのね。」


 「そしてレーゲ様の攻撃の瞬間、魔法で一気に風を吹き降ろして水の蛇を叩き潰したんだ。」


 「ああ!その瞬間、思わず目を瞑っちゃってたよ!何て惜しいことをしたんだろう!」


 口々に、試合の結果をすぐさま分析する上級生たちの姿は、「学問に力を入れているグラブダ王国」というものを顕著に表していた。その光景は、学問という手段を未だ持っていない新入生たちには眩しく、とても羨ましく映るのだった。


 「うふふ。流石、私達の国の子たちね。エルマ、補足説明はしなくてもいいの?」

 「いい。概ね皆の言う通りだから。」


 「やあやあ、お疲れ様。風の威力の不足を、気象現象でカバーするとはね。細かく魔法を使えるエルマらしい勝ち方だったな。」

 「雲が出来上がるのがあと少しでも遅かったら、エルマの体力が尽きて、レーゲが勝っていたな。惜しかったな、レーゲ。」


 お互いの健闘を称え合い、四人の武官はゼライツに向かって整列し、揃って跪いた。


その姿に、ゼライツは満足そうに頷いては、

 「これにて、『王立警備隊長模擬試合』の終了を宣言します。ジグムント、ルヴェン、レーゲ、エルマ。よくやりましたね。」と述べた。

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