第二戦 4

 エルマが着地したと同時に、足元から更なる水の蛇が襲う。それを躱した先にも常に水の蛇が待ち構えている。

その隙から、レーゲはエルマに剣を打ち込む。


 一瞬たりとも動きを止められないエルマは、次第に息が上がり始める。

躱す動きも少しずつ鈍くなっていく。ついには、水の蛇の攻撃にかすり、着地のバランスを崩した。


 戦況が動くと同時に、太陽は雲の影になり、広場の様相を一変させた。

陽の光を映さなくなった水の蛇は、更に凶暴さを増したように見える。


 「ただでさえ繊細な風魔法をそれだけ細かに使うんですもの。流石に疲れたでしょう、エルマ。そろそろ決着をつけましょう。」

 「・・・本当に疲れた。終わったら甘いものが食べたい。」

 「うふふ、そうね。素晴らしい模擬試合のお礼に、それくらいは奢ってあげるわ。」


 石畳を濡らす水が全て、レーゲの元へ集まり、再び巨大な大蛇へと姿を変える。最初の一撃を加えたものよりも数倍大きい。


 空を覆う雲は黒く厚く、先ほどまでの晴天を嘘のように隠してしまった。

空の色を写していた水の大蛇の体もまた、黒く凶悪な姿で立ち上がり、エルマを睨んでいる。


 レーゲの剣が勢いよく空を切る。黒い大蛇は一気にエルマへ襲いかかる。辺り一帯がビリビリと揺れるほどの衝撃音が響いた。


 観衆は思わず、目と耳を塞ぐ。あまりにも容赦ない光景に、これが『模擬試合』と呼ばれるものであることすら、すっかり忘れてしまっていた。


 次の瞬間、激しい突風が観衆を殴りつけた。周囲を守る警備隊の盾に当たり、直撃は避けられたものの、特に最前列にいた観衆は、体勢を保てず、思わず尻餅をついた。

 塞いだ目を恐る恐る開く。雲に隠れていた陽の光が再び広場を照らし始めた。


 そこには、レーゲの喉元にピタリと剣を突き立てるエルマの姿があった。

 

 「長期戦は苦手なエルマだから、ひたすらに上下に飛び回らせて疲れさせようと思ってたんだけど、ひょっとしてそれが失敗だったかしら?」

 「お陰様で、上手く上昇気流を操れてた。雲が出来て、激しい下降気流が起こせるくらいに大きくなったから、一気に吹き下ろしたの。ダウンバーストっていう現象、初めて魔法で起こして使ってみたけど、水の蛇を上から潰せて良かった。」


 「両者そこまで!第二試合、勝者、エルマ!」

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