第二戦 3

レーゲのその攻撃の跡に、そこにいた筈のエルマの姿はなかった。

僅かな風だけを残したその場所は、攻撃の威力をありありと示していた。


茫然とする観衆を照らす、高く輝く陽の光がゆらりと揺れた。

次の瞬間、激しい旋風に乗って、エルマがふわりと空から舞い降りてきた。


彼女の周りに渦巻く風は、木の葉や砂や水を巻き上げ、やがて鳥のような形を作る。


「風の鳥だ!」「すごい!はっきりと形を見られたのは初めて!」


「レーゲ。今、冗談じゃ済まないくらいでやったでしょ。ジギーとルヴェンには「度を越すのは無し」って言っていたのに、ひどい。」

若草色の髪は風に軽く持ち上がり、不機嫌そうに膨れるエルマの頬を晒し出す。


「あら。手加減はするけど、手は抜かないのが模擬試合でしょう。貴方なら、どちらにしろ大丈夫だし、それに何より、今回は私の希望の一つがかかっているのよ。自ずと力も入ってしまうわ。」

全く悪びれる様子のないレーゲは、再び剣を構え、手甲の魔法陣を光らせる。


先ほどの攻撃で出来た水溜りから、今度は複数の水の蛇を作り出した。

弾けた先で新たな水溜りを生み、石畳の目に沿って流れ出す。

その先で新たな水の蛇が生まれ、次第に辺りは水浸しになっていく。


空の色と日差しをそのまま地面に映すようになった広場は、直視出来ない程の眩しさを放っていた。


「レーゲ様!流石の眩しさです!」「水の蛇も一層美しい!」

特にレーゲを応援している者たちは、目をしぱしぱさせながらも、彼女の姿を見逃さまいと必死に目を凝らしていた。


「ああ!あまり眩しすぎるのも考えものね。私の姿が見えなくなってしまうもの!」

レーゲの操る大量の水の蛇は、エルマへ一斉に容赦なく襲いかかる。


エルマは「風の鳥」と呼ばれた旋風に乗って空高く飛んでは、その猛攻を、まるで風に舞う木の葉のように、くるくると躱す。

 彼女の脚絆の羽飾りは、風を掴んだ本物の鳥の羽のように自在に動いていた。獲物を狩る鳥のような素早さで、鋭く剣を打ち込む。


 レーゲの剣は水の蛇を纏い、エルマの剣を滑らせては弾き返す。

その度に、散った水は虹を作り、二人を照らし出す。

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