第二戦 1

 鋭い音と共に抜かれた剣を構え、間合いを図る両者。その二人の間に、風が音を立てて吹き込みはじめる。

広場の木々は大きくしなり、古い葉はもちろん、真新しい葉までもが散っては、旋風の中心に吸い寄せられていく。


ついには先の戦いで砕けた石も風に巻かれて、再びカラカラと鳴り動きはじめた。

くるくると舞う葉によって現れる風の流れは複雑で、全く予測が出来ない。


 「この狭い範囲で風の中心を幾つも作り出すエルマの風魔法には全く敵いませんね。私も日々修練は積んでいるつもりなのですが。」

ゼライツは、最初に披露した自身の風魔法を思い返しては、ため息まじりに呟いた。


 「勘弁してくれ。ゼルの全力に、エルマの技量がついてしまったら、それこそ国中の家の屋根瓦が飛んでしまうだろう。」

ジグムントとルヴェンは、心底困った顔をして言った。


 「風の魔法って、周りにあるものに特に影響されやすいの。たとえその障害物がどんなに小さくても、そこにあるだけで風の流れはすぐに変わってしまうからね。」

 「ただ真っ直ぐに風を吹かせるなら、難しいながらも練習次第で出来なくはないけど・・・。風の流れを読み切った上で、細かく操るのは、本当に難しいんだ。」


 「ここだけの話、ゼライツ様は、エルマ様を特にライバル視しているらしいよ。やっぱり同じ風魔法使いだし。」

「エルマ様もゼライツ様に対してそう思っているって聞いたことあるよ。」

「気持ち分かるなぁ、自分の得意な魔法は誰にも負けたくないもの。」


 「エルマ様とゼライツ様、お二人で練習したりするのかなぁ。」

 「もしそうなら、仲良くなったりしちゃうよね?」「もしかしてそうなの!?」


ヒソヒソと話しているはずの観衆の声は、風に乗って、レーゲとエルマの耳にも届く。


「うふふ、これはまさに『風の噂』ってやつかしらね。若い子たちって本当に素敵なことを考えるわね。そういう話、私は好きよ。もしご入用なら、うちの仕立てた服を見繕うから、こっそり教えて頂戴ね。」

レーゲは、悪戯っぽくクスクスと笑う。


「私はこういう話は苦手って知っているのに、レーゲは意地悪。」

エルマはムスッとして、頬を膨らませた。


「あら、ごめんなさいね。でもそんな風に想像する皆を愛おしいと思うのは、エルマも一緒でしょう?」


黙ったままで、同意の言葉は口には出さないエルマだったが、それまで吹いていた強い風が、その瞬間、俄かに柔いだ。

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