月光の影 2

廊下の静けさに寄り添うかのような、落ち着いた声。ナグの跳ねる心は、その声に平静さを取り戻した。


「いえ、こちらこそ、驚かせてしまってすみませんでした。新入生のナグです。あと二人、今は眠っていますが、アンナちゃんとイリスタちゃんもいます。ええと・・・、オリビア、さんですか・・・?」

歓迎会の時に、コニーと上級生たちが話していたことを思いだして、問いかけた。


「ああ、もう話に聞いていたか。その通り、私はオリビア。・・・こんな夜中に起こしてしまったかな。来たばかりで緊張した中、やっと休める時間だったのに、すまなかったね。」

「いいえ、そんなことは無いです。私はちょっと考え事をしていたから、寝ていなかったので・・・。あの、こんなに遅くまで、お疲れ様です。」

「ありがとう。どうしても帰寮はこの時間になることが多いんだ。もしかしたら、他の二人にはなかなか会えないかも知れないな。どうか、よろしく伝えておいて欲しい。」


今日一日見かけた学生たちの誰よりも、疲労の色を含んだその顔は、一目で、最上級生である彼女が、如何に高度な研究をしているのかが伺い知れるようだった。


「はい。必ず伝えます。お疲れのところ、引き止めてしまってすみませんでした。おやすみなさい。」

「うん。おやすみ。」


オリビアが自室に戻るのを見届けたナグは、再び布団の中へ潜り込む。

交わした言葉は少なかったが、彼女の人となりはその中でもしっかりと感じられた。そして、ふと、上級生たちが話していた、オリビアの第一印象を思い出した。


「・・・うん、確かに、最初はちょっと吃驚しちゃったな。でも、話してみると、とても優しい人。全く、先輩たちの言う通り。オリビアさんに初めて出会ったときは、こんな気持ちだったのかな。そうだ、お話の中に、この気持ちのことも書いておきたいな。ええと・・・。」


これから作り出す御伽話の世界を、あれこれ考えているうちに、ナグはいつの間にか、夢の中に落ち、静かに寝息を立てていた。


そうして、グラブダ王立学院入学式の夜は更けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る