三人の部屋 2

そっと頬を撫でた外の空気に、ナグが窓を開けて外を眺めていることに気がついたアンナとイリスタも、その景色を覗き込んだ。


「わぁ、凄く良い眺めだね!」

「本当。夜でも街はとても賑やかなのね。」

「あそこが街の中心かな?あっ、あれは何だろう?あっちは何だろう?」

「向こうの方から、新しい船がやってきているのが見えるよ。こっちからも船が出て行っているね。どこへ向かうんだろう?」


二人は、机に置くはずの小物を手にしたまま、夢中になって外を眺めていた。


「お城側から見ると、街がこんな風に見えるなんて知らなかったなぁ。生まれ育った国だから、ある程度は街のことを知っているつもりだったんけど・・・。」

ナグもまた、今まで見てきた景色が如何に小さなものだったかを痛感していた。


「ねぇ、ナグちゃんの書くお話の中に、ナグちゃんが今日一日で感じた、この気持ちのことも書いて欲しいな。」

「私もそう思ってた。きっとこれは、初めての今日しか感じられない気持ちだから。お話の中のナグちゃんも、同じように感じると思うの。どうかな?」


突然の提案に、ナグはキョトンとした顔をし、そして少し考え込む表情を浮かべた。

「そうだね。うん。今日一日・・・初めて孤児院のある地区を出て、初めてお城の中に入って、図書館の大柱を見て・・・そこでアンナちゃんとイリスタちゃんと会って。王様にお会いして、寮までの道と夕陽が綺麗で。コニーさんと先輩たちが優しくて、ご飯がとても美味しくて。そして今窓から見える景色がとても大きくて・・・。」


ナグはそう言って、しばらくううんと唸り、ふと難しい顔を崩して、

 「今日一日だけでも、たくさんの気持ちがありすぎて・・・。どう書こうかなぁ。」

と、頬を赤く染めては、柔らかく微笑んだ。


 「私も同じ。故郷に、この気持ちについて手紙を書こうと思ったんだけど、どう書いたらいいのか・・・。いっぱい書きたいけど、持ってきた便箋だけじゃ足りなくなっちゃいそう。」

 アンナは、空に向かって文字を描くように、指を動かしながら思案の顔を浮かべた。


 「そうだ!明日、学院の予定が終わったら、街に行ってみようよ!折角なら、手紙もお話も、この国でしか売ってない便箋や用紙を使って書こう。それにほら、船の中でもアンナと話してた、本屋さんも探さなきゃ!」


 イリスタは、街の光と同じくらいに目を輝かせて、待ちきれない気持ちを表すように、その場でぴょんぴょんと軽く跳ねた。

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