三人の部屋 1
三人の荷物は、それぞれの机の横に纏めて置かれていた。ただ、イリスタの荷物だけは、机の幅に収まりきれず、二人の机のスペースにまで及んでいた。
「本当にこうしてみると、やっぱり物凄く荷物多かったわね、イリスタ。」
「うう、ごめんねぇ。ある程度はすぐ片付けるから・・・。ある程度は。」
アンナの軽い皮肉に、イリスタが謝りながらも、ややのんびりと返す。
イリスタの目線は、如何に荷物を置こうか目星をつけるように、あちこち動いていた。
ナグは、自分の鞄が置かれた机をそっと撫でた。過去、この机の上で紡がれたものに、そしてこれから紡がれるものに思いを馳せる。
「明日もまた学院をまわるって聞いているわ。朝の集合は噴水広場よ。ここの寮はご存知の通り、広場から遠いから、朝は早めに支度をしてね。さて、今日は私からはここまでにしておくわ。アンナちゃん、イリスタちゃん、ナグちゃん、おやすみなさい。」
コニーは自分のエプロンをポンポンと軽く叩いて、自分の仕事の終わりを示し、彼女の一日を締めくくる挨拶を告げる。
「はい。ありがとうございます。おやすみなさい、コニーさん。」
三人も、慣れないことだらけだった今日一日を締めくくる挨拶を返した。
「わぁ、眠れるかなぁ。」
イリスタは先ほどにも増して、部屋の隅々まで見渡している。
「イリスタ、荷物片付かなくて寝坊しました、なんて絶対ダメよ!」
「分かってるよぉ。ええと、ここにこれを置いて・・・。」
アンナはやれやれとため息をつきながら、自分も荷物を解き始めた。
ナグは、ただ一人軽い荷物を机の上に置くと、窓へ歩み寄った。仄かにひんやりとした空気が肌に触れる。
自身の背中から感じる部屋の灯りにより、窓の外はより一層濃く夜の色を落としていた。窓を開いて、その暗さに目を慣らすと、窓から見えるはずの風景の、夜の姿が浮かび上がってきた。
正面には、月の光をちらちらと写す大海。眼下には、国民が暮らす街と港の明かりが、 海岸線を彩るように伸びている。耳を澄ますと、細やかな波の音と、微かな活気の声が聞こえてきた。
その光景に、ナグは思わず感嘆の息をついた。
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