ルーグ邸寮 1
素朴な形の燭台に柔らかく照らされた、玄関正面の壁面には、国章と学院の紋章が左右に描かれているタペストリーが掛かっており、その下に続く、見上げるほどの棚には、いくつもの表彰状やトロフィーが並んで輝いていた。
それぞれ、丸い手書き文字の説明文と、受賞した者達のサインが添えられている。
棚の一番下には、手作りながらも丁寧に装丁された、「ルーグ邸寮・卒業生」と書かれた本が並べられ、一目でこの寮の歴史の長さ、巣立った学生たちの多さと優秀さが見える。
「随分と大荷物ねぇ、大変だったでしょう。さぁ、ここに荷物を置いて。二階のお部屋に運んでおいてあげるわ。」
出迎えた女性が三人に声をかける。
動きやすそうな深い緑色のワンピースに、真っ白なエプロン。緩くウェーブのかかる薄紫色の髪は、肩のところで一つにまとめられている。
「ありがとうございます・・・。すみません、ほとんど私の荷物なんです。」
イリスタが額に滲んだ汗を拭きながら、照れくさそうに言った。
「いえいえ、いいのよ。新しく来た子たちは皆そういうものですからね。後は他の皆に任せて、貴方たちは、まず夜ご飯にしましょうか。お腹すいたでしょう?」
そう言って優しく笑う女性は、その様子を後ろから見ていた上級生たちに、荷物の搬入を頼み、上級生たちは快く引き受けていた。
玄関を入って右手の扉の先は、白い皮張りのソファと、程よく小傷の入った、背の低いテーブルが置かれた談話室。隔てる壁が無いその先は、香ばしい匂いの元である食堂になっていた。
真っ白なテーブルクロスが敷かれた食卓には、三人分の食事の準備がされている。
大きな梁で支えられた空間は、今日一日気を張り続けていた三人を労わるように包み込んでいた。
「自己紹介が遅れてしまったわね。改めて、初めまして。私はこのルーグ邸寮の寮母、コルネリアです。皆からはコニー、と呼ばれているの。よろしくね。」
たった今、初めて会ったはずなのに、彼女のその優しい眼差しは、まるで実の母親のものによく似ている気がした。
実の母をよく知らないナグにすら、そんな風に感じられるのだった。
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