グラブダ王国 1

グラブダ王国の成立は、約五百年前。その時代は、「再生戦争(リジェネーション・ウォー)」と言われる、全世界に広がる大戦が起こった時である。

主に人口が増えたことによる環境悪化が原因と言われるこの戦争に於いて、創世神話にうたわれる「姿の地」に住む龍種と天翼種、「心の地」に住むヒト種、「力の地」に住む魔種が、それぞれの正義のために、それぞれにとっての悪を討ち倒した。

戦いは苛烈を極め、身を投じる者たちの姿を、心を、力を容赦なく壊していった。


その時代、この地にはズメイ族という、創世神に仕える巫女の役割を持つ龍種の一族と、それを支えるヒト種が暮らしていた。

「人智の及ばぬ自然の力は、すなわち神の力。我々は耐え、乗り越えるのみ。然すれば恵みは齎される。」

この教義を信じ、度々起こる大風や大波に耐え、我慢強く生き抜いてきたこの地の者たちにも、戦争の波は押し寄せ、飲み込んでいった。

圧倒的な威力の魔法や兵器に、到底敵わぬと見たズメイ族は、ひたすら忍耐すべしと説き、戦争の時が過ぎるのを待つことを選んだ。

それはつまり、蹂躙に抵抗することを諦めよ、ということと同義であった。


「神の起こす蹂躙ならば、いつかは恵みがやってくると信じて耐えることが出来たが、神ではない者が起こした蹂躙の先に、恵みがあるとは思えない。ましてや、いつ終わるとも知れない時間を待つほどの命は、我々には無い。」

 龍種のような長い寿命と堅牢な体を持たないヒト種が、そう考え始めるのに、時間は掛からなかった。


 神ではない者たちに対抗するために、ヒトは研究し、戦略を練った。強大な魔法を使う龍種には、魔法を打ち消す道具を。空を舞う天翼種には、撃ち落とす鋭い矢を。圧倒的な力を持つ魔種には、巧妙な罠を。

 年月を経るごとに、その知恵と技術は蓄積され、これにより守られた海と崖の地は、いつしか国と呼べるほどに大きく発展していった。

中でも、ヒト種を先導し、その発展に最も大きく貢献したのが、今のグラブダ王家である。


斯くして、グラブダ王国は成立し、再生戦争が終わった後、現在に至るまでその叡智を求め、多くの者が訪れる国となったのである。

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