翼たちの中で 1

 荒れた岩肌の僅かな手掛かりを頼りに、用心深く谷を進んで、トールとロキは再び合流した。

 「参ったね。急に風が捕まえらなくなった。しばらく自分で空を飛んでいなかったから、下手になっていたのかもしれない。半分でも天翼の名を語るなら、練習しなくちゃね。」


 特に酷く打ち付けた部分に、自身の魔法で作り出した氷塊を当てながら、ロキは照れくさそうに笑う。

 「戻ったら、加療院へ連れて行くからな。その氷の角も治療して貰おう。医師は嫌がるだろうが、ロキがロキたる証だからな。有無は言わさん。」


 龍の鱗に似た硬いロキの髪を無理矢理掻き上げて、氷の角の生え際を心配そうに覗き込もうとするトール。まるで幼い弟の怪我を気にする兄だ。

 氷の世界からやってきた得体の知れない赤子の自分へ向けられていた、天翼族唯一の懐かしく優しいくすぐったさに、ロキは思わずトールの手を、その頃と同じようにぱちんと軽く叩いて払い除けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る