氷の記憶 6

幼すぎる故に、その光景はロキにとって覚えているはずもないものだ。しかし、奇妙なことに、「確かにそうだった」と直感していた。

 「・・・そうだ。永遠の氷の中に・・・。」

 ロキは激しい体の痛みの中で、再び気を取り戻した。砕け折れた氷の角をさすりながら、揺れる視界をやっと安定させる。

 「トールの場所からかなり逸れた場所に落ちちゃったな。痛てて・・・。」

 ロキの落下した衝撃で舞っていた砂埃と砕けた氷の煙が晴れると、雷槌を握る利き手を庇っている様子のトールが、出来た崖の亀裂の向こう側に見えた。


 「ロキ!無事か!?生きていたら返事をしてくれ!」

 かなり距離が離れているはずだが、トールの必至そうな叫び声は、すぐ隣にいるようにはっきり聞こえた。天翼族の戦士たちが聞けば、その力強さにたちまち奮起するだろう声色だ。

 なるほど、戦士長然な雷槌を携えたトールらしいことだと、ロキは口元を緩める。

 「ああ。なんとか無事だよ!トールこそ、大丈夫かい?」

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